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第17話
「よー、ひさしぶりー」
電話越しに聞こえてくる友人の声に妙に安堵して泉はベッドにごろりと寝転がりながら「久しぶり」と返した。
電話の相手は高校時代3年間同じクラスだった親友の大谷健二で現在大学生。高校卒業した後も定期的に遊ぶ仲だ。
「バイトどう?」
「んー……」
「なにきついのか?」
「いや、できればずっと働きたい」
喋りつつリモコンをとりテレビのチャンネルを変える。バラエティ番組があっていたのでそれにした。
「へー。なに正社員登用あるのか?」
健二の何気ない言葉に、う、と詰まる。もともとは就活していて落ちまくったからのバイトなのだ。
「……わかんないけど」
「わかんないってなんだよ。バイトでいーのかお前」
「いや……そりゃ最終的にはちゃんと就職したいけど。いまの仕事楽しいし……」
「はあ? ……あーわかった可愛い子でもいるんだろ!」
テレビでは流行りのお笑い芸人がネタを披露し終わったところで1DKの部屋に観客の笑い声と拍手が響いてくる。いつもは泉も笑って見ているが今はまったく入って来ず、親友からの何気ない指摘に心臓が跳ね上がった。
「可愛い子とかそんなんじゃない!」
可愛いではなくカッコイイだし。いや、そういう問題じゃない。
泉は急いで否定したが、電話の向こうが沈黙した。
「……え、マジで? 女っ気ぜーんぜんなくて、恋愛機能故障してるんじゃって言われてた泉がついに!?」
「いやいやいや、だから違う!」
恋愛経験皆無の泉と違い、健二は出会った高1の頃から彼女がいた。いない時期も当然あったがどちらかというとモテるほうなのかリア充というべきなのか片手で足りないくらいの過去の彼女たちを知っている。
健二始め友人たちから女の子を紹介してもらったこともあるが当然なんの進展もなかった。
「どんな子?」
「違うって!」
涼介といいなんでこんなに鋭いのか。そんなにわかりやすいのか? そんなことないだろ。
泉は身体を起こしあぐらをかいて不満気に口を尖らせる。
「よし、お前いつ暇? 飲み行こうぜ! じっくり話し聞いてやる」
「……だから違うって……」
完全に間違っているわけじゃないが、親友だからといってそう簡単に男を好きになった、なんてカミングアウトできるわけじゃない。
がっくりとした気分でごろごろと転がり壁にぶつかる。
どう誤魔化せばいいのか。それさえ経験不足でさっぱりだった。
「それに最近飲みいってないだろ? いつ暇なんだよ。合わせるからさ」
健二が言い出したら聞かないことはもう五年になる付き合いでよくわかっている。確かにここ二、三か月会っていなかったし、恋愛相談は別にして息抜きをしたい気持ちもある。
泉はシフトを思い出しながらため息をついて答えた。
「……再来週の土曜は?」
その日は早上がりでなおかつ日曜月曜と二連休になっている。
「りょーかい。他の奴らも誘っておく」
たいていあと二人、高校時代の友人と一緒に遊ぶことが多かった。
「……わかった」
「じゃーな。ま、なんか困ったことあったら言えよ?」
「ねーよ!」
健二の軽い笑い声が聞こえてきて電話は切れた。
「……困って……はないけど、相談なんてできないよなぁ」
スマホを握り締めたまままたベッドに寝転がりテレビを眺める。電話は切ったがテレビは目に映るだけでちっとも頭には入らずーーぼんやりと泉の脳裏には一貴のことが浮かぶばかりだ。
ゲイ、ノンケ。
そんな単語をスマホからネットで検索しはじめ、泉は今日もまた悶々とする夜を過ごすことになるのだった。
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