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第19話

『今日はリョウくんがナポリタンを作ってくれました。とっても美味しくてリョウくんやっぱりすごい!』  すっかり毎日の日課となったブログのチェック。  楽しそうなシノブが可愛くて、幸せのお裾分けをもらっているような気分になるのだ。  自分もいつか恋人が出来てこんな幸せな日々を送れたらいいなと想像してーーあり得ないとわかっているのに隣にいるのが一貴だったら、と妄想してしまうのだ。  恋というものはこんなにうきうきとして同時に厄介なものなんだ、と最近泉はしみじみ実感していた。  仕事中の些細な一貴との会話が嬉しくて向けられる笑顔に幸せを感じる。  そして想像がどんどん膨らんでいくのだ。  ないけど、ないけれど、もし、もしもあるとしたらーーな未来を思い描く。  たまに涼介が来るとそんな想像を気づかれないように気を張るが、涼介はあれ以来とくになにも言ってきていない。何事もなかったように接してくる。  だから、気まずさはいつの間にか紛れていっていた。  勝手に浮つく毎日はあっという間に過ぎ、『明日な、忘れるなよ~』と親友の健二からメールが来た休憩時間。  遅出だった泉に現実がぶつけられた。 「今日、店長いつもより気合い入ってたよねー」  早出だった一貴たちが帰って1時間半。8時を過ぎた売り場はまったりとした空気が流れている。それでも金曜の夜ということもあるのか平日にしてはお客はわりといた。  カウンター内にいた泉は思い出すようにくすくすと笑う野口に首を傾げた。 「店長ですか?」  野口はおしゃべり好きでこうして遅出の後半、暇なときに雑談することがわりとあった。 「そう。ほら、今日のネクタイとかいつもの店長の趣味じゃないものだったでしょ?」  一貴のネクタイ。泉は思い出そうとしてみるがうろ覚えだ。赤系だったような気もするが、だいたい一貴の顔ばかり見てるのでそれ以外目に入っていないのだ。 「そうなんですか? よく見てますね」 「だってあんまり店長って派手なのつけないし、ネクタイもネクタイピンもアルマーニだったのよね。あれ彼女からのプレゼントだと思うわ」 「……彼女」 「そう! いまね海外で働いてて遠距離恋愛なんだよ。でもそろそろ帰ってくるって噂」  呆気に取られ泉は野口が教えてくれる情報を反芻する。  まさかこんなところで一貴の恋人について知るとは思わなかった。  恋人がいるということは涼介に聞かされていたし、わかっていた。はずなのにチクチクところで胸が痛む。 「……へ、へー……。野口さん詳しいんですね」 「もともと店長の恋人ってうちの社員だった人だしね」 「えっ……そうなんですか?」 「うん。でも二年で転職したんだって。全然うちとは関係ない外資系の会社に。それで二年前くらいかな、海外赴任になって遠距離」 「……」 「店長とその恋人と同期の先輩がいろいろ教えてくれるのよ。オフィスラブ、みんな好きだからね~」  はぁ、と気の抜けた返事しか泉はできなかった。  いつから付き合ってるのかはいらないが短くはない。長い付き合いなんだ。  そうか、と泉は気にしないように気にしないように自分に言い聞かせる。 「店長の恋人だからきっと綺麗な人なんでしょうね」 「そうらしいよー! すごく美人なんだって」 「そうなんですね」  気にしない、気にしていない。そう内心呟きながら意識して声を弾ませる。話にのっているように笑顔を作った。 「多分いま一時帰国してるみたいだから店長今日デートなんじゃないかな。それに先輩に聞いた話だと日本に戻ってくるかもって話らしいから、そろそろなのかな? 早川くんどう思う?」 「ど、どう?!」  どうってなにが? まさか好きなことがバレて?  驚きで声が裏返り狼狽える泉に野口が好奇心に目を輝かせる。 「プロポーズ!」 「……は?」 「だって付き合って五年で、ようやく恋人が帰国するってなったらプロポーズ考えるんじゃない?」 「え……そうなんですか……」 「そうだよ~! それで私たちの間では今回の一時帰国でプロポーズするんじゃないかって盛り上がってるの」  へぇ、としか泉は言えなかった。  初恋で、ただ近くにいれるだけでいい。  そう思っていたはずだ。  なのにーーなぜこんなにもショックを受けるのか。  なにも望んでなんかない。ただーー。  泉は自分自身に動揺して楽しそうな野口に相槌を打つので精一杯だった。 ***

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