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第24話

 涼介の部屋は二度目だ。まさか二度目があるとは思ってもみなかった。  泉は相変わらず綺麗に整理整頓されている部屋のソファに腰を下ろしテーブルの上を眺める。そこだけはずっと涼介が飲んでいたことを現すようにワインの空瓶二本と焼酎、つまみ類が広がっていた。 「……これ全部ひとりで飲んだのか」  強い。そりゃ俺がついていけるわけないよな。  この前の二人で飲みに行ったときの涼介のペースに乗ってしまった反省をいまさらしつつ溜息をついていると、目の前にグラスが置かれた。 「はい、なに飲む? 水割り? カクテルがよかったら簡単なものならつくれるよ」  テーブルの上にジンなどのリキュールボトルをのせていく涼介。 「水割りでいいです」 「了解。薄めにしておくね」 「ありがとうございます」 「まぁ今日は俺の家だし酔いつぶれても問題はないけどね」  床に座り、グラスに氷を入れ笑う涼介に泉は頬を引き攣らせた。問題ありありな気がする、とは言わないでおくが。 「はい」 「どうも」  居酒屋ではほどほどに飲んだがカラオケでは二杯くらいしか飲んでいない。そんなに酔いを感じていない泉は受け取ったグラスで乾杯をして口元に運びながら、この前のようにならないように気を付けようと密かに気合を入れる。  それにしてもどうしてここに来てしまったんだろう。  それだけは不思議で――ほどよい水割りを飲みながらつまみを進めてくる涼介の顔をそっと見つめた。 「友達って学生時代の?」 「はい。高校のときの」 「へー、いいね。俺は最近会ってないなぁ」 「やっぱり社会人になったら仕事の付き合いとかーが多くなるんですか?」  涼介の手作りだという鶏せんべいをつまむ。お店で食べるレベルにおいしくて思わず「おいしい」と呟けば涼介が嬉しそうに微笑んだ。 「そうだね。職場の同期とか、先輩たちとか、まぁ仕事関係で飲み行くこと多いかなぁ。学生時代の友達ともたまには会うけどなかなか都合合わなかったりするからなぁ」 「あーやっぱりそうなんですね」 「でも学生時代の友達ってのはしばらく会わなくてもずっと友達だし貴重だって思うよ、本当」 「そうですよね」  バイトの経験はいくつかあっても、実際社会人となるとまた別なんだろう。社会人になったら頻繁にあうこともなくなるのだろうか。  いや涼介が言うように会う回数が減るときがきたとしても健二たちはあのまま、いつ会っても同じだ。親友は親友に変わりない。  一年後のことさえ想像できないなか数年先を想像して見て、チクリと胸が痛んだ。  そんな親友に――いつか男が恋愛対象だと言える日がくるのか。  もやもやしたものが胸の内を覆って水割りをあおる。 「……涼介さんって高校時代ってどんな感じだったんですか? いまみたいな感じ?」  いつか健二たちに話せるといいな。  溜息をひっそりつきつつ、切り替えるように涼介に話を振ってみる。 「いまみたいな感じってどんな?」  おかし気に笑う涼介。 「えっと……爽やかで明るくて仕事できそうで……モテそうな?」 「へー泉くんから見た俺ってそんな風なんだ。俺なんてまだ入社三年目の新人に毛が生えたようなもんだよ」 「えー俺から見たらすっげぇ大人ですよ」 「実際そんなかわらないよ。確かにまだ二十歳の泉くんは俺から見たらすごく若いけど」  5歳年上の涼介は泉にとっては年上で大人ではあるけれど、こうして飲んでいると改めて親しみやすいしキス事件をのぞけばリラックスできて楽しいと思える。  ソファに座っていた泉は床に座りなおして涼介が自分の歳だったころ、高校の頃を想像してみた。 「きっと涼介さん昔から大人っぽかったと思う」 「そんなことないよ。バカばっかりやってたし」 「でもモテてましたよね?」 「どっちに?」  テーブルに片肘ついて小皿に入ったアーモンドへ手を伸ばし掴みかけたところで泉は一瞬手をとめた。  どっちに。  予想外の問い返し。  泉にとって一貴は初恋で、自分が同性愛者だと気付いた、確信した。でもそれまでは異性愛が普通と思っていた。 「……どっちも」  苦し紛れに返す。言って、だけど、どっちにもモテそうだとも思った。  アーモンドを口に放り込みなら涼介を伺う。 「そうだねー。わりとどっちも、かな」 「……まじで」 「まじでー。ちなみに中学までは共学だったんだけど、高校は男子校だったんだ。中学のときには男が好きってわかってたし、男子校のほうが手っ取り早いだろ?」 「手っ取り……」  そこは頷くところなのか。どういう意味なのか泉にわかるはずもない。 「変な意味じゃないってことでもないけど。共学だとさどうしても女の子との接点が増えるでしょ。ぼちぼちモテるほうではあったからまったく興味ないのに告白されても困るし、向こうもかわいそうだしね。それに男子校ってさ、まぁ一時的なものかもしれないけど同性でもってなっちゃうやつもたまにいるんだよ」 「……へ、へー」  涼介の話を聞いてるとドキドキしてしまう。まだ一貴を好きになる前、女の子を紹介されても、彼女を紹介されても、恋愛話をふられてもピンとこなかったし胸がときめくこともなかった。  なのに、いま涼介がちらりと見せた高校時代の話に興味がわいてどうしようもない。  思わずそわそわとして、聞いていいものか悩んでしまう。 「気になる?」 「……まぁ」 「どこから?」 「へ?」 「俺の初恋から聞いちゃう?」  テーブルの片隅に置いてある煙草を手にし吸い始める涼介が泉の顔を覗き込んで楽しそうに目を細めた。  泉は目を泳がせしばらく逡巡したあと小さく頷いた。  すぐに涼介が身を乗り出して話し出した。 「初恋は6歳のときかな」 「はやっ」 「そう?」 「初恋も……男?」 「そうだよー。友達のお父さん」 「えっ」 「先生とかじゃなくて?」 「そうそう。友達のお父さんなんだよなー。保育園だったんだけどお迎えにそのお父さんがいつもきててさ、かっこよくて好きになった記憶ある」 「へー!」 「で、なんでかは忘れたけど頭撫でられたことあってますます好きだなって思った思い出」 「へー!!」

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