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第27話

 どれくらいそのままでいたのだろう。  数分? 十数分?  短くはない。ひどく長いような気もするけど、そうでもないような気もする。  落ち着いてくると段々どうしようと泉はまた緊張してきていた。  いつまでもこのままでいるわけにはいかない。  落ち着いたので大丈夫です、ありがとうございます。  と、離れればいいのだろうか。  こういう些細なことさえ経験不足で戸惑ってしまう。  思考がそのまま身体に伝い、つい身じろぎしてしまうと涼介の腕の力が強まった。  ぎゅ、と抱きしめられ涼介の頭が泉の肩に乗る。首筋に涼介の柔らかい髪があたりくすぐったく、どきりとする。 「落ち着くね」  耳元で響く普段より静かな声音にそわそわするが涼介が慰めようとこうしてくれてるのがわかっているから無下にすることができない。 「……そう、ですね」  でも、そう。落ち着く。ゆっくりとまた身体の力を抜いてみた。 「はー……」  涼介が擦りつけるように頭を動かす。犬にでもじゃれつかれているような感じだ。  自分と同じように涼介もまた人恋しくなったりするんだろうか。  涼介になにかあったとき自分も同じように話を聞いて上げれたらいいな。  泉は伝わるぬくもりに健二たちとはまた違う友情を涼介に感じていた。 「やばい勃ちそう」  その言葉を聞くまでは。 「はっ!?」  な、なんて言った?  ぎょっとして涼介の後頭部に視線を落とすと、顔を上げた涼介と至近距離で目が合う。 「あ、あの、涼介さん」 「ね、キスしようか」  あの朝の再来? いや、きっと冗談だろう。  そう思うも泉は身を引こうとした。だけど涼介の腕の力は緩まらずにそのまま後ろのソファに二人でもたれる。 「またまたー……」  はは、となんとか引き攣りつつ笑ってみる。 「だってさー、泉くん可愛いんだもん。前も言ったけどいろんなこと教えてあげたくなるんだよね」  冗談ではなく本気なのか。いやあの朝のときよりも、なにかさらに空気が変な気がした。  経験値ゼロの泉が気づくくらいに、涼介の目が甘く輝いてる気がする。 「……そう、いうのは……好きな人と……」 「泉くんピュアだから好きな人とと言ってたらじーさんになりそう」 「……」  ない、とは言えない。簡単にひとり寂しい年取った自分が想像できる。 「先輩を好きなのはそれはそれ。んで、俺がリアルな経験を教えてあげるのはこれはこれ」 「いやいや、意味わかんないですよ」  それはそれ、これはこれ。  って、これはないだろ。  泉は近すぎる涼介と視線を合わせては外し、また合わせて、ため息をつく。 「でもハグ、いやじゃなかったよね? いま嫌悪感ある? 俺に」  まだ抱きしめられたままの状態だ。床に座り込んで抱きしめられて、泉の後ろにはソファしかない。 「いや……じゃないけど、それは……」 「知らないやつに抱きしめられたら?」 「それはいやですよ」 「じゃあイケる」 「……いやいや」 「キス、してみてきもちよかったらオッケーてことにしない?」 「なんなんですかそれ」  クスクス笑いながらからかうような口調にからかわれてるような気がしてくる。からかわれてる、と思いたいだけなのか泉にはわからずとりあえずはこの腕の中から抜け出さなきゃいけないといまさら身をよじった。 「先輩のこと好きでも俺は構わないし。友情の延長線上で泉くんと触れ合いたいなってだけだし」 「……そんな友情あるんですか」 「俺はあり。恋人いないし、性欲は性欲って感じだし。泉くん可愛いから食べちゃいたいし」 「……」  食べーー……。  絶句してまじまじ涼介を見つめると、涼介が吹き出す。 「ちょ……からかわないでくださいよ」  やっぱりからかわれてる。  と、脱力したら顔に影がさした。 「ほーら、隙あり。そういう油断が大敵ってやつなんだよー」  え、と思った瞬間にはあの日、あの朝と同じように唇が塞がれていた。  ゼロの距離に涼介の顔がある。目を見開いたままあの時と同じように呆然とキスを受ける。  頭は一気にパニックになって、湿った涼介の唇の感触に頭が沸騰しそうになって、酒の匂いを感じた。  自分からではなく涼介の酒気を帯びた吐息。  その匂いに気を取られたとき、下唇を食まれた。触れるだけでないその感触に驚いて、次いでぬるっとしたものが呆然とわずかに開いていた泉の唇からへと滑り込んできて。 「――ッテェ」  驚きすぎて反射的に泉は噛んでしまっていた。

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