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第28話

 涼介の唇が離れ倒れるように肩に頭が乗ってくる。 「す、すみません! 大丈夫ですか?」  謝る必要もないのだろうが舌を噛んだら痛いよなと経験があるだけに放っておけず心配してしまう。  うーん、と唸りがら涼介はぺろりと舌を出して見せてきた。 「大丈夫」 「よかったです」 「泉くん」  ホッとするが、呼ばれるとまたすぐ緊張して身構える。 「キスするときは目つぶって」 「……」 「あとキスって触れるだけじゃないのもあるから」 「……」  のほほんと言い放つ涼介に呆気に取られて泉は目をしばたたかせた。 「へ、え」  そういう問題か?  いやそもそもなんで涼介とキスをしなければという話で。 「泉くん、今度は噛んじゃ駄目だよ」  背にあった手。右手が背から泉の腕を滑り手を握ってくる。 「あの、涼介さん」 「俺、泉くんのこと好きだよ。泉くん、俺のこときらい?」 「……いや、そうじゃなくて」 「ね、泉くん」  涼介の指は泉の指に戯れるように触れてきて、絡ませてぎゅっと繋がれる。  真っ直ぐに泉を見つめる目が、直視できない色を持っていて動揺する。 「もう一回、やり直し」 「……っ、涼介さん」 「触れ合うのって、ほんとーに気持ちいいんだよ?」  色気をたっぷり含んだ艶のある笑みを浮かべ距離を縮めてくる涼介に動けなかった。  まるで金縛りにあったように目を逸らせず近づいてくる涼介を見ていた。 「泉くん、目、閉じて」  閉じる必要なんてない。  ないんだけど。  またお酒の匂いがして、もしかして自分はやっぱり酔っていたのかもしれない、と泉は思った。  吸い付くように涼介の唇が触れて、気づけば泉は目を閉じていた。  キス、してる。3回目になるキス。  涼介が言ったとおりに触れるだけじゃないキス。  唇を軽くかまれて涼介の舌が唇を舐めてくる。隙間から咥内へと入ってこようとする。  歯列をなぞられて泉は硬直した。息を止めてしまっていると涼介が離れる。 「……泉くん。息止めちゃだめ。それと緊張しすぎ。もっとリラックスして口開けて」 「……は」  パニックで涼介の言葉が頭に入ってこないし、まだキスをするのか、と過るが反応できない。 「あと舌も動かしてね」  舌を動かす。  って、なに?  疑問が浮かぶがその意味を考える前にまたキスされた。あっさりと、ぬるりと、咥内に涼介の舌が入ってくる。  上顎を舌先でくすぐられ背筋がぞくりとした。身体を大きくびくつかせると繋いだままの手が強く握りしめられる。  キスくらいの知識はある。ディープキスというものがあることだってさすがに知っている。  ただそれがこんなに。 「……んっ」  泉の舌に涼介の舌が絡みついてきた。驚いてまた噛んでしまいそうになるが耐える。思わず涼介の手を涼介以上に強く握り返した。  舌がまとわりついてきて表面を裏側を滑っていく。  初めての感覚。ぞくぞくと何度も背筋を駆け上がっていく感覚。   舌を動かせ、と言われたけどそんなことは無理で翻弄されるしかない。  今の状況が信じられなくてクラクラするしキスしていることに顔が熱くなるし頭の中も熱い。  唇の端から唾液がこぼれ落ちそうなのを感じて思わず涼介の肩を叩くと舌が出ていく。  荒い息を吐く泉の口端を涼介の指が拭って熱っぽい吐息が濡れた唇に吹きかかる。 「舌、俺に絡めて、ね?」  笑いを含んだその声に返す余裕はゼロ。そのまままた塞がれ舌が絡んできて、ぞくぞくと駆け上がるものが頭の先まで走っていく。 「……っん」  戯れるような涼介の舌の動きに思考が痺れて、ただ縮こまっているのもきつくてーーおずおずと泉は舌を動かしてみた。  瞬間さらにキスが深くなって舌同士が激しく絡み合って。  頭の中が霞んでいくのを感じながら力が抜け涼介に縋り付いた。

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