どうしよう。 　頭に血が上って煮えたぎってるように熱くて何も考えられない。 　ぎこちなく舌を動かすたびに生き物のように動く涼介の舌に絡め取られて擦り合わせて吸われてぞくぞくとしたものが全身を駆け巡っていく。 　血が、間違いなく頭にのぼってるのに、下肢へも集まっていくのを遠くに感じる。それがどういうことかまでは考えが及ばなくて、泉はキスに夢中だった。 　流されるまま、与えられるままに涼介のキスに翻弄される。 　止める術も止めたいとも思えずにジンジンと痺れる身体がこのままでいることを求めている。 「ん……ふ、ぁ……っ」 　たまに角度を変える際にわずかに唇が離れるたびに聞いたことのない自分の声が耳に入る。羞恥を感じる前にまたキスが落ちて溺れていく。それの繰り返しだ。 　どれだけキスしていたのかわからない。 　ハグよりも遥かに長い時間だ。 　頭の芯から溶け出しそうなくらいの熱を感じていた。 「大丈夫？　泉くん？」 　涼介に目を覗き込まれてようやくキスが終わったことに気づく。 　動悸は激しいし息も荒く、キスの余韻にぼんやりしていた泉は小さく頷く。 　涼介が目を細めて軽く下唇を甘噛みしてきた。 「ほんと、大丈夫？　すっげぇ、エロい顔してるよ」 　エロい。誰が？ 　認識するまでに時間がかかって、すでに上気していた泉の顔がさらに赤く染まる。熱でもあるんじゃないかというくらい顔が熱い。 「っ、あ」 　なにか言わなければと思うのにうまく舌が回らなかった。 　涼介にべったりともたれかかっていることに気づくが動かない。 「キス、気持ちいいよね」 　ちゅ、と互いに濡れた唇が触れ合う。でも舌は入ってこなくて無意識に物欲しげに泉の目が涼介の唇を追う。 　涼介は楽しそうに笑いながら泉の鼻の頭、まぶたへとキスを落としていって、耳たぶを最後に食んだ。 　唇をされたのと同じように軽く歯を立てられる。 「……っ、ん」 　思わず声が落ちてしまう。耳への刺激と触れる吐息に痺れる感覚を覚えて身体を震わせる。 「泉くん、ココ、どうする？」 　なんか、ヤバい。俺絶対ヤバい。 　それだけはぼんやりと自覚してる中、耳元で涼介が囁いて泉の身体に触れた。 「……ぅあ！？」 　頭以上に血が集まっていた下肢が撫でられた。 「りょ、涼介さん……っ」 　服の上から軽く触れられただけなのに大げさにびくつく身体。泉は危機感を覚えて涼介の腕をつかんだ。 「なにー？」 「さ、触らないでください……」 　自分の下半身がガチガチに硬くなってるのはわかってる。それを涼介に知られて恥ずかしいという気持ちは当然あって、だけどいまはそれ以上に簡単に弾けてしまいそうな感覚があった。 「なんで？　きつくない？　抜いてあげようか？」 「っ、むりむりっ……無理ですっ……んっ」 　抜く？　誰が誰のを？ 　裏返る声で必死になってると、すべてを飲み込むようにまた涼介に唇を塞がれた。入り込んでくる舌に自然と自ら舌を絡める泉。それがもう気持ちいいと知ってしまったから、抗いようなく触れ合わせてしまう。 　キスへと意識が集中してしまってると、下肢に涼介が触れてきた。 「ンンっ」 　気持ちいい、と、同時にやばい、と腰が浮く。 「……っ、りょ……っ、まっ」 　涼介の肩を押してなんとかキスから逃れる。 「なんで？」 「いや……っ、だから……」 「すぐ出そう？」 　悪戯気に問われてカッと顔が熱くなる。図星で泉は口をパクパクとさせ目を逸らした。 「泉くんってさ普段どう処理してんの？　先輩で初恋でゲイって自覚したんだよね？」 　すぐに声は不思議そうなものに変わって続けて問われる。 　泉は言葉を詰まらせた。 「まさかオナニーもしたことないってことないよね」 「……そ、それは……するけど……」 「おかずは？」 「……」 　高校のころがふっと思い浮かぶ。健二たちに渡されたエロ本やアダルトビデオ。貸してもらっても結局それを使うことはなかった。 「……擦る……」 「……え？」 「……擦ってたら……出るから」 　女性の裸を見ても何の反応もしなかった。だからといって男同士のアダルトビデオを見るのは怖く、泉がしていた自慰行為と言えば機械的にただ吐き出すための作業のようなものだったのだ。それほど自慰のペースも多くはなかったし。 「え、手で？　無心に、みたいな？」 「……はぁ」 　誰にも言ったことがなかった。泉自身、自分のやり方が不安でもあったから。 「それって……」 　まじまじと涼介が泉の目を覗き込んで、苦笑した。