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夕暮れ時の邪魔者
階段をあがる
重たい鉄扉を開くと風が顔にかかって、乱れる髪の隙間から差し込む夕日が眩しい。
その夕日を背景にしながらフェンスに寄りかかる青年、そいつは俺と同じ制服を着ていた
当然だ、ここは校舎の屋上で俺達はここの生徒。
寧ろここに外部の人間が居たら通報しなきゃいけない。まぁ、その時は誰かがするだろう
彼はこちらを見るとふわりと笑った。
俺はわざとらしく欠伸をして眩しい夕日に向かって足を踏み出す。
行きたい場所にそいつが居ただけだと自分に言い聞かせた。
「君も自殺しにきたのかな?」
結果、隣りにまで行った俺にそいつは話かけてきた。しかも柔らかな表情で
そういうことはそんな顔では普通しないんじゃないだろうか
なんというか、やりずらい
眉間を押さえながら、一応答えてやる
「違う」
すると、こいつは何故か目を真ん丸にさせてから目を輝かせた
「俺は寝に来たんだ。言っとくが死ぬなよ、俺の安眠が妨害されるのは嫌いだ」
その場で地面に寝転がるとそいつまでしゃがんで俺の顔を覗き込む。
折角の暖かい日差しが遮られ、景色も隠されてしまった。
「なに?」
一生懸命嫌な顔を作って見せるが効果は無い
「まだ授業中なのに?不良だね」
「お前もな、そこどけ。日が隠れんだろ」
すると今度も、やっぱり笑ってというかさっきよりも嬉しいのか声を出して笑った
「やっぱり君は僕が見えるんだね」
「はぁ?お前人間だろ、普通に見えるわ」
こいつは電波か何かかよ。まぁ、蝉が元気に鳴くくそ暑いこの夏にカーディガンを着るくらいだから、変わっている事は確かだが
「僕、机の上に花瓶置かれたり話かけても誰も反応しないから、きっと生きていないんじゃないかな」
指まで隠れそうな長い袖を顔の前に持ってきて、そんな話をまるで面白そうに話す。
「あ、そう。じゃ寝るわ」
「あ、待って待って。君の名前教えて」
「はるか」
「へぇ、女の子みたいな名前だね。僕の名前はね千夏。千の夏って書いてちかって。でも人って百歳生きるのもあやしいのに千回も夏なんて迎えられないよね。
親に聞いても女でも男でもどちらでも良いようにってしか言われなかったから」
「俺はお前にはぴったりだと思うぞ。夏のうるさい蝉みたいで」
「それって明るいってこと?」
「あぁ、どうにでも取ってくれ。俺は寝る」
「ねぇ、寝る前に一個だけ良い?」
夕日の温かさは寝るのに丁度良い。
微睡む意識の中、もう夢の中へ入り込もうとする寸前楽しそうな声でこいつは言った
「明日も君に会いにいくね」
返事だけは返したような気がする、わからない
深い微睡みの中で意識は途絶した
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