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呑気な復讐者
翌日、昼寝をしていると肩を叩かれた
普段起こされることなんて無いから、慌てて目を開けると昨日の彼奴が膝を抱えながら顔を覗きこんでいた
「なんでいんの?」
「だって昨日会いにいくって言ったじゃない」
寝ぼけた頭で昨日を思いだす
「そうだっけ」
たしかにそんなことを言ったような気がする
「で、何しに来たわけ」
体を起こし片膝を立てる、ついでに乱れた髪も適当にほぐした
「君と友達になりたいなって、僕友達なんて居なかったから」
「はぁ?そんなの適当に…いや何でもない。」
頼れる奴がいたら昨日こいつは、ここに居なかった筈か、友達というのは人によっては難しい存在なのかもしれない
何て言葉を続けようかな悩んでいると、千夏が頬を掻きながら口を開いた
「へへ、僕ね母親が居るんだけど僕はいらないって、父さんはどっかにいるらしいけど…
そんなんだからクラスじゃ仲間外れにされて
昨日みたいに授業抜け出しても何も言われなくてね…世界から拒絶されてるみたいだった
だからね、昨日はここから皆を見下ろしながら落ちる事を考えていたら、夕方になってたんだ」
ふと、まだ夕日が上がっていない空を眺める
「綺麗だろ、ここの夕日
俺はこれを見ながら寝るのが好きだな
俺も嫌な事があったときにそれを見て救われた」
すっかり肯定だと思っていた千夏はフェンスに寄りかかりながら首を横に振った
「僕は逆、余計に悲しくなった。
世界は僕が居なくても太陽は昇っては沈んで、星空が瞬いて、朝を迎える。そんな日常を繰り返していたらきっと僕は誰の記憶からも消える。
そう考えたら悲しくなって、死にたくなくなった。「誰の記憶にも残らない」なんてそんなの悲しすぎるでしょ?」
座っていた俺を見下ろしていた目には、笑ってはいるものの暗い影が落ちていてなんとなく彼の考えが読み取れた
「もしかしてお前は俺と友達になったら、俺の前で死ぬのか?」
鳥の囀ずりが二人の間に静かに落ちる
薄ら笑いを浮かべて千夏は瞼を閉じる
「…君は案外するどいね」
「本気ならお前の頭がおかしいね、…良いぜ友達になってやる」
彼は心底驚いた顔をして、苦笑いを浮かべる
「今のを聞いて?言っておくけど本気だよ」
「だからだ、お前のじめじめした様子を見ていたらイライラして寝れねぇんだよ
睡眠が楽しみなんだから、邪魔されたくねぇ」
「寝るのが趣味って君も充分暗いけど」
「あぁ?喧嘩うってんのか言っとくが喧嘩お前よりは強い自信あるぞ」
「売ってないけど、変わり者だね」
「そうだよ、変わり者だ。
でも、お前も幽霊扱いされる変人だろ」
「あはは、そうかもね」
「俺はもう帰るから明日来たかったら来い、来たくないなら良いから。
それ以外は会わない。
心底付き合ってお前の復讐の材料にはされたくないからな。
精々、仮初めのお前の心を僅かには癒してやるよ。じゃあ、俺は帰る」
「意地悪だなぁ、じゃあ僕は死にたくても死ねないわけだね。
そのくらいの思い出じゃ君の記憶には僅かにしか残らないものね。
それじゃあ、意味がない」
心底恐ろしい計画を立てたものだと、顔をひきつらせながら彼には答えず鉄扉を開けて屋上を後にした
これはただの気まぐれ、少しくらいは彼の助けをしたいと思った
僅かな気の迷いだった
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