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夕暮れ時に触れたのは
「俺さ、ここで死んだんだよ。」
「うん」
寒い中二人でくっつきながら話し合う、とは言っても俺は透けているから形だけなのだが
それでも隣に居たくて千夏も黙って受け入れてくれた
「しかも間抜けな死に方で煙草吸ってたら、お前と同じようにフェンスが壊れてさ。
気が付いたら、ここに立ってた。」
「なんで?」
「さぁ、俺は生前になんの未練もなかったからな。まぁ何もしてこなかったからって意味だけど…多分何かを成し遂げなきゃいけなかったんだ
多分お前に出会う運命だったんだな」
「ふふ、すごい運命だね、僕を救ったのは先生でも家族でも友達でもない…恋人だって」
「恋人って、まだ俺お前に言ってない」
「良いんだよ、僕達の関係くらい誰にも決められなくて。僕は…遥が好き」
「…俺もお前が好きだ」
そういって互いに頬を染めあげていると二人の間にオレンジ色の光が差した
神々しいまでの夕日が、目が眩むくらいの光を放っていてそこでやっと雪が止んでいることに気が付いた、同時に別れの時間だと告げられているみたいだった
「もう、お別れか」
「そうだね…えっ」
その時懐かしい体温を感じた、互いに目を合わせて先ほどから形だけ重ね合わせていた手を見た
確かに熱をもって質をもって重ね合っている手があった
これは願ってもいいんだろうか、一度だけそれを望むなら
こみ上げる言葉よりも先にどちらともなく唇を重ねた
一度きり
触れるだけの
一瞬の
だけど、最高の時だった
どうってこのとのない人生だったけど、死んでからこんな幸せな時間を迎えられたなら
今度こそ何の未練もなく終われる、だから
もう1つの我が儘だけ
離れる一瞬、彼に囁いた
「 」
夕日の光に吸い込まれたかのように、もう遥は居なかった
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