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春の雪

その日は桜が咲いていながら酷く寒い日だった 桜の花が散る中、三年間過ごした校舎に名残り惜しむ者 興味もなく鞄を背負い颯爽と立ち去っていく者 涙ぐむ先生、そうでない人 けど、皆未来に向かって次々と校門から出ていく その中に当然千夏の姿は無い 俺と同じ存在になって隣に、なんて居るわけがない 千夏はあの日にここから落ちてから、どこか遠くの世界に行ってしまった 俺は何故かまだこの世界に留まっている。 てっきり消えているかと思ったのに、神様はやはり残酷だ 今日も、明日もいつ終わりが来るかわからない日々を同じ場所で待ち続けるだけ なんと退屈なことだろうか 風が強く吹き、桜の花びらが屋上まで舞ってきた。 掴めるかと手を伸ばしたが、花びらは手をすり抜けていく 「掴めないか・・・雪?」 季節外れの雪に驚いて空を見上げると同時に後ろから声がした 「卒業だって言うのに酷い天気だよね、空は鉛色でお日様も見せてくれないなんて」 それは懐かしくて愛しくて、会いたかった人によく似た声だった でもそんなのある筈がない、それでも反応して振り向いた 「・・・千夏?」 「まだ居たんだね」 鉄扉から現れたのは、松葉杖を付きながらも胸に花をつけた紛れもない千夏だった 「全治するのにあと半年はかかるみたいだけどね、卒業には間に合った」 苦笑いしながら、包帯が巻かれた腕を見せてくる 自分は、それに碌な言葉が思い浮かばずただ嬉しくて涙が溢れてくるのを止められなくて。掴めないと知りながら彼に近寄った 「僕ね、あの時君に謝りたいって願ったんだ。 酷いこと言ったって、君の気持ちだってわかってた。でも、あの時はどうしようもなくて…君のすごく悲しい顔を見たら…会えて良かった」 「謝るのは俺の方だ、俺がお前に向き合わなかったから…だから」 千夏は腕を伸ばして、泣きじゃくる俺の腕を掴もうとしたがやっぱり透き通てしまった 「…俺さお前にまた会えてそれだけで十分だから だから、多分これは神様が与えてくれた奇跡 もうじき、てか多分今日俺は消える」 それに、静かにうなづきながらいつもの太陽のような笑みを見せた 「…寂しいな、ねぇ少し話をしようよ」 「うん…最後にいっぱい話をしよう」

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