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滲む視界
「なんで居るんだよ」
千夏から逃げた翌日、その日も息が白む寒い日だった
「そういうハルこそ、来てんじゃん」
フェンスに寄りかかりながら、こちらを見ない千夏、その顔は泣いたのだろう目元が赤く腫れあがっていた
そんな彼に俺は目を合わせられなくてポケットから手を出した
「俺はここにしか来れないだけで。まぁ、それももうすぐ終わるっぽいけどな」
屋上のコンクリートでできた床が透けて見える手を見つめながら悲しくなる。
俺は死人だった
「ハルが生きていなくても、僕がそっちに行く」
「馬鹿、そんなことできない癖に」
「できるよ・・・最初に僕が言ったこと覚えてる?」
薄れていたあのことが脳裏に浮かび、首を横に振る
「やめろ」
太陽の笑みじゃなく、薄く儚い笑みを浮かべる彼に背中に悪寒が走る
「僕は君のためになら命だって投げ出せる」
そういって、千夏は錆びた柵に手をかける。
その顔は落ち着いていて頭のどこかで、やらないと言ってくれるだろうという望みは打ち消された
「やめてくれ!!」
怒鳴った声は千夏の泣きそうな叫びに打ち消される
「じゃあ!僕にどうしろって言うんだよ。折角、初めて好きな人が出来たのに、君のために生きたいって思ったのに、君が死んでるんじゃ僕が生きている意味がないじゃないか!
一緒に居たかったのに、一緒に生きたかったのに
こんなに触れ合えるのに、会話もできるのに、心も一緒なのに、成長していくのは僕だけなんて耐えられるわけない。
生きる希望を与えたのは君なのに、突き落とすのも君だなんて・・・」
シャツが皺になるほど指で掴みながら、今まで見せたことのない怒りを見せた。
顔を涙で濡らし、目は血走り悲痛な声で怒って
今まで向き合ってこなかったツケだと思った
俺は感情の昂った彼を止めようと近寄った
千夏はそれを拒んで拳でフェンスを叩いた
すると、バキッと音を立てて脆かったフェンスが千夏と一緒に地面に吸い込まれるように後ろに落ちていった
「千夏!!」
それはまるでスローモーションのように感じて
必死に伸ばした指先が触れた
触れたのに俺が掴んでいたのは空気だけだった
逆さまに落ちていく千夏を、何もできずに見ることしかできなくて、助けを呼ぶこともできない。
鈍い音が遠くで聞こえて、俺は誰にも聞こえない大きな叫びをあげていた
これはもう少しを願った俺への罰だ
千夏に向き合わなかった俺が招いた最悪の結末だった
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