ハル、そう呼ばれることに心地よささえ感じてきたころ 空気が澄み、凍った地面が本格的な冬を教えてくれる その日は突如訪れた 「今日も抱きしめて」 会うたびに恒例になったハグをしていた時だった自身の異変に気が付いて、心臓が飛び出しそうになる どうすればいい それが一気に頭を埋めて手が震えて隠すために強く抱きしめた 「ん・・・ハル？」 「今日は少しこうしていたい」 少し前から気がついていた自分の感情が、苦しい でももう少しだけでいい、もう少しだけ 千夏も背中に腕を回して抱きしめてくれる 「ふふ、良いよ僕も寒いし…あのねハル俺進路決めたんだ」 「何？」 「俺先生になろうと思う、ハルと出会って僕が救われたように誰かを救ってあげたい」 「すごくいいと思う」 「ハルは？」 「俺は…適当に暮らしていこうかなって」 「何それ…ねぇここ卒業したら親の元を離れるんだけどさ。今バイトも頑張ってるし 一緒に住まない？」 本気で言っているのはわかっていた。 俺と一緒に暮らしていく決心をつけて、勇気を持って言ってくれる言葉 でも俺は…それに答えられない 「それは」 「…ハル、僕君が好きだよ。 友達よりも大切で、家族よりも必要な存在なんだ」 俺はその先を受け止めるのが怖くて立ち上がった 「あー、俺寒いから帰る」 「待ってよハル！今日変だよ。いつもある小言がまるでないし、優しいし」 「俺はいつも優しいだろ」 「そうだけど…そうじゃなくて、俺に隠してることある？」 「ない」 「嘘だ、なんでこっち見ないの？」 「・・・つ！」 何も言わずに立ち去ろうとして、千夏は追いかけてきた 「まって！！・・・っえ？」 千夏は顔を強張らせて俺を見つめた、俺は透き通った手を後ろに隠す 「ハル？今の…えっ？」 「もうここに来るな」 「待って！！」 千夏の悲痛な表情が脳裏に焼き付きながらも俺は、結局千夏の問いに答えないまま逃げた