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第五章 † ④その先にある結末。
「貴様……」
バランは憎々しげに鮮血に染まった唇を歪めた。
「残念だったな。そいつはもうぼくの縄張りの中にいる。いくら淫魔といえども掟は破れまい」
薄い唇が弧を描く。その微笑すらも美しい。
カルヴィンは体勢が崩れたのを見計らい、バランからの逃亡に成功した。するとすぐさまクリフォードは懐から短剣・ジャマダハルを取り出した。バラン目掛けて突く。
しかし相手の方がスピードは上だった。ジャマダハルによる突きの攻撃はことごとく避けられる。それでも食らいつく彼が蹴りを繰り出せばブーツの踵に取り付けた仕込みナイフが彼の肉を裂いた。
自慢の肉体を傷つけられ、怒りを露わにしたバランはクリフォードのみぞおちを蹴った。
たったそれだけの一撃は、けれども絶大なダメージを与えた。
クリフォードはなんとか体勢を立て直してバランから遠ざかるものの、その場に蹲ってしまった。
「クリフォード!」
地面に跪くクリフォードに慌てて駆け寄れば、薄い唇は荒い呼吸を繰り返すばかりだ。
「いいか、君は今すぐここから逃げろ。ぼくではあいつには勝てない」
どんなに罵っても何があっても動揺を見せなかった男は今、苦しそうに顔を歪めている。
その姿を見ていられなくて、カルヴィンは大きく首を振った。
「いやだっ!」
「無茶を言うな。これでは君を泣かせてまでベッドに縛り付けた手段がすべて水の泡だ」
「それってどういう……バランがぼくの喉に噛み付こうとした時、体勢を崩したのと関係があるの?」
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