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29、ブリーフィング

 結局、午後の訓練でも珠生と深春が勝利を収めた。  すぐさま行われたブリーフィングで、盛んに意見交換が行われる。まずは、職員同士で自分たちの思いをめいめい述べた後、改善点や次までに行うべきことについてを意見し合う。ひたすらにダメ出しをされる形になった紺野や芹那は、しゅんとしてうつむいている。  同様に結界班の者たちは、自分たちの結界術をこととごく破った珠生の力に、若干自信を失っている様子も見られ、そのフォローに回る彰も若干疲れた顔をしていた。 「これじゃ能登で通用するかどうか……」 といじけている更科宗太に、葉山はびしりと厳しくこう言った。 「午後に試した、複数人で同じ結界術を行うという方法なら、珠生くんでも破るのに相当時間がかかったわ。今後は結界班の中でももっとしっかりチームを組んで、気を合わせることができるようにして行きましょう」 「あ、そっか……」 「何情けない顔してんのよ。珠生くんと深春くん相手に、あそこまで大将を守れたんだからいい方だわ。しゃんとしなさいよ」 「お、おう……」 「元彼にも容赦無いな……」 と、彰は小さく呟いた。 「ここいらでもっと強力な結界術を新たに取り入れてもいいかもなぁ。どう思う、彰くん」 と、成田が尋ねる。 「そうですね。この数日で、この集団の霊力はかなり高まりましたし、おそらく発動できるものもいるでしょう」 「そんなのがあるんですか?」 と、赤松。 「あるよ、もう一段階上のものが。京都に戻ったら修行や。ほんでまた、珠生くんらに試してもらおうか」 と、成田。 「そんなんあるなら、最初から教えて下さいよ」 と、赤松が文句を言うと、成田は苦笑して頭をかく。 「すまんすまん。ここで負担を増やすのもなぁと思ってな」 「珠生はどうだった?」 と、彰が横に三角座りをしていた珠生に尋ねる。深春と珠生は二班に分けられ、それぞれで感想を言い合うという格好になっているのである。 「確かに、葉山さんの言う方法をとられた結界術は、破りにくかったです。斬撃があそこまできかないなら、きっと一般的な妖はほとんど消されてしまうと思う」 「そうだね、僕もそう思う」 「ただ、雷燕は妖気を鋭くして雨のように降らせるような攻撃方法を取って来ました。ああいった細かく鋭い攻撃は、すり抜けちゃうかも」 「……そうなんだ。じゃあちょっと他の術を混ぜて厚みを増して……」  ぶつぶつと葉山と成田が何やら相談し始めたのを見て、彰は今度は舜平を見た。 「君、けっこうやるじゃないか。霊力がなくてもいけそうだな」 「おお。めっちゃええ道具もらったわ。もう少し修行したら、珠生くらい倒せそうやな」 と言って舜平はにやりと笑う。 「俺くらいってなんだよ」 と、珠生。舜平に蹴りを入れられた場所が、ふとまたちくちくと痛み出す。 「湊も、狙いは完璧だな」 と、彰はにっこりと笑う。 「ええ。このカーボン製の弓、飛距離も結構あるからええですね。技術部に俺も入りたいくらいや」 と、湊は自分の前に置いている黒い弓と矢筒を見下ろして満足気に微笑んだ。 「よし、今後も意見してやってくれ。君がいれば、我々の装備も厚みを増しそうだな」と、彰も満足気である。  とりあえず大将の機嫌が良いので、皆は何となくホッとして会議を終えた。  +  一時間半後から、沖縄訓練研修の締めと銘打った宴会が催されることとなっている。皆部屋でめいめい休息を取ってから、ぞろぞろと初日に宴会をした座敷の店へと集まってきた。  部屋で仮眠を取った珠生は、どことなくぼんやりとした頭を抱えて、幹事の女性職員の導くままに席についた。深春も隣でうつらうつらとまだしており、向かいの湊が深春をつついて声をかけている。  「ご飯出てきたらきっと起きるよ」 と、珠生は苦笑した。 「そう言うお前も眠たそうやん」 と、舜平と敦がやって来た。珠生の隣りに座った舜平は、久しぶりにジャージを脱いで私服姿である。 「脇腹、どうなった? 痛いんか?」  戦闘訓練で思い切り蹴りを入れられた珠生は、じとっとした目付きで舜平を見上げる。無言でシャツをまくって見せると、その下でどす黒く腫れ上がっている傷を見せた。 「うわ! 痛そ」 と、湊が仰天している。舜平はやばい、という表情を浮かべてぺこりと頭を下げた。 「ごめん、まさかあんなにきれいに入ると思わへんかってん」 「別に痛くないし」 「俺、湿布貰って来たるわ」 と、まめまめしく湊は立ち上がり、裸足で畳の上をたたっと走っていった。 「優しいなぁ、湊は」 と、珠生はぶすっとして舜平を睨む。 「お前が油断したからあかんねんで」 「久々に真剣持ってるとこ見たから、そっちに気がそれたんだよ」 「ああ、あれはよかったわ。普段から持ち歩きたい勢いや」 「銃刀法違反だよ。馬鹿」 「馬鹿とは何やねん。根に持ってんのかぁ? 他の奴らにだって色々やられてたやんか」 「舜平さんにやられるのは異様に腹立つ」 「はぁ、何やねんそれ。可愛くないやっちゃな」  ぷち、と舜平の額に青筋が浮かぶ。 「別に舜平さんに可愛がられたくなんかないですけど」  そう言って、珠生はそっぽを向いた。深春はだらりと珠生の膝に突っ伏して、眠たそうに唸りながら目をこすっている。 「まぁまぁ。舜平もなんとかこうやって俺らと戦えることが分かったんじゃし、珠生くんも色々勉強になったんじゃろ?」  見かねた敦が、二人の喧嘩をいなす。 「また京都でもやろうや。道場壊さん程度にな」 と、敦はすっきりとした笑顔を見せてそう言った直後、「けど今日の借りは必ず返すからな」と、恨めしげな目線を珠生に向けた。

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