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酒は飲んでも飲まれるな〈後〉
彰はまず手始めに、背後から優征の顎を捉えた。
そしてやや強引に優征に後ろを向かせると、なんのためらいもなく優征の唇に唇を重ねた。
襖が開け放たれて続き部屋になった二つの飲み会会場が、静まり返る。
「んっ……!? ちょ、先輩……っ!!」
「なるほどね……君はなかなかいい気を持ってるな……そこそこに美味だ……」
「ちょっ……ふぇっ……せんぱっ……ん、」
「でもね、珠生を君にはやれないよ。ふふ……今度珠生に手を出そうとしてごらん、僕がまたこうしてキスしにくるから覚悟しておくことだ」
「ちょ、あ、やめっ……っ、ふぐ」
優征の首筋に指を這わせつつ、彰は何度か優征の唇を塞いでいる。大柄な優征だが、彰の有無を言わさぬ手の力には逆らえないのか、「んーんーーーっ」と呻きながらもされるがままになっている。
二、三分優征を弄んだ後、彰は艶かしい目つきを斗真に向けた。
唖然として二人のキスシーンを見ていた斗真は、ぎょっとしたように身体を震わせ、ささささっと壁側に後退する。しかし、彰はすぐさま間近に迫ってくると、四つ這いのまま斗真の顎を指先ですくい上げた。
「あっ……先輩っ……」
「君はぁ、珠生のこと好きすぎの刑!! いくら珠生が優しいからって、調子に乗りすぎるのは良くないよ。……ふふ……珠生には、もうれっきとしたお相手がいることだしね」
「えっ……え、そ、そーなんすか? それって、まさか先輩……!?」
「さぁて、どうだろうね。……でも、今まで珠生にちょっかい出しまくってたお仕置きは、させてもらうよ」
「えっ……ちょ、ぁ、あんっ……っ!!」
彰は首を伸ばして斗真にキスをしながら、片手を下ろして斗真の腰回りに指を這わせた。ビクビクっと素直に身体を震わせる斗真を楽しげに見つめながら、彰は斗真の唇をいやらしく舐め、もう一度唇を押し付けたりしている。
「ァ……あ、せんぱ……っ、ン、ぁ……っ!」
「ふふ……可愛い反応だね。君、ひょっとして珠生にこうして攻められたかったのかな? ……違う?」
「ちち、ち、ちがいますぅぅぅ!!! 俺は、俺は……ァん、そんなとこ触らんといてくださいぃぃい!!!」
「ちょっと太もも触っただけじゃないか。ウブで可愛いね……ふふふ……」
「ちょ、ちょっ……斎木先輩っっ!!」
「珠生にちょっかい出したら、僕、君にもっとすごいことしちゃうから覚悟しておきたまえよ」
「……は、はいっ……♡」
斗真を沈めた後、彰はうっそりとした目つきで、眠る珠生を見た。まるで黒豹が獲物を見定めた瞬間のような、艶っぽくも攻撃的な目つきで。
「さて……」
彰は再び眠る珠生の元へ近づくと、「あ、ちょ、やめたほうが……」と言って彰をたしなめようとしている湊を押しのけた。湊も彰には逆らいにくいのである。
そして彰は珠生の上に四つ這いになり、指先で淡く珠生の頬を撫でた。規則正しい寝息を立てる珠生の唇を親指でなぞり、うっとりと微笑んだ。
「ふふふふふふ……かわいいなぁ珠生は。いつもは舜平に邪魔されちゃうけど、今はいないし。ベタベタし放題だね」
「べ、べたべたって……先輩、酔いすぎですって。それにみんな見てはりますよ!! 医学部の先輩なんでしょ!?」
と、湊がもう一度苦言を呈すも、彰は聞かない。ちらりと上目遣いに湊を見上げ、「しー」と言って唇に人差し指を立てる。
「いーのいーの。先輩たちは全然美味そうじゃないからもういいんだ。……それより、今日は存分に珠生の霊力を味わえると思うと……ふふ、ふふふふ……」
「んー……あ……」
髪を撫でられ、珠生がうっすらと目を開いた。彰はゆっくりと上下する珠生のまつげを見下ろしながらすいっと顔を近づけ、珠生の耳元で囁いた。
「さぁ……僕に身を委ねて。目を閉じていてごらん」
「へ……? 佐為……?」
「あぁ……可愛い珠生。僕の珠生……ふふふふ……」
「ん……ぁ……」
優しく優しく頭を撫でる彰の手つきが心地いいのか、珠生は何を疑うでもなく、またふわりと目を閉じてしまった。
そして、彰が舌なめずりをしながら顔を近づけたその瞬間。
「縛」
「うっ」
開け放たれた襖の向こうに、舜平の姿が現れた。
片手で印を結び、心底呆れたような顔をして立っている。
「湊に呼ばれて急いで来てみりゃ、これか」
「……しゅ、舜平……ひ、人前で術を使うなんて……おしおきだぞ」
と、身動きの取れない彰が苦しげにそう言った。
「アホ。お仕置きされんのはどっちや。からみ酒もええ加減にせぇよ。葉山さんにチクったろか」
「う」
「それに、どうせ誰にも見えへんやん。今から術を解くから、すぐ珠生から離れろよ」
「……くっ……君はいつもいつも、僕の邪魔をして……!」
「そんなにチューしたいなら、俺がしたんで」
「ふん、暑苦しい。君とキスなんて、まっぴらごめんだ」
「……いやいや先輩、今もっと暑苦しいのと二人、チューしてましたやん」
と、湊がぼそりとつっこむ。
舜平が印を解くと、彰は深く息を吸って身を起こした。そして、ジト目で舜平を睨んでいる。
「なんやその目。ほら、どいたどいた。珠生は俺が送ってく。……っていうかこいつ、どんだけ飲んでん。そんな弱ないはずやのに」
「おおかた、この飲み会に参加する直前まで君に散々いやらしいことをされていて、体力を奪われていたんだろうさ」
「うっ……お前、なんでそれを……」
「え? 何? 図星? はぁ〜〜〜〜、君ってやつは、本当に無節操だな。少しは珠生の身体のことも労ってやらないとだめだろう? まったく、盛りのついた獣のようなやつだな君はっ!」
「うっさいねん!!! そこらへんのやつらに見境なくキスしまくるお前に言われとうないわ!!」
「見境なくなんてことはない。僕はきちんと獲物を見定めて、」
「あーもーああ言えばこう言う。はいはい、どけ。酔っ払いの相手してる暇ないねん」
「あーーー、さては送り狼になるつもりだな!! そうなんだな!! 助平男め!!」
「うっさい! 湊、後は頼むで」
「お、おう……」
「待て! 話はまだ終わってなーい!!」
ひょいと珠生を抱え上げると、ひしと彰が足に縋ってきたが、彰もすでに相当眠たげな顔をしている。舜平は湊に彰を押し付けて、さっさと居酒屋を出てきた。
車を停めている地下駐車場に降りる間、珠生は身じろぎひとつせずに寝息を立てていた。キーを取ろうと、酒やキムチなどの匂いに包まれて眠りこけている珠生を抱え直しながら、舜平はため息をついた。
「……まぁ、確かに無茶はさせてるかもな……」
彰の言う通り、休日の開放感にかまけて、真昼間から珠生とセックスに高じていたのは事実である。今日の珠生は「この後用事あるから!」と言ってあまり積極的ではなかったが、つれないことを言いつつも身体は素直な珠生のことが可愛くて、ついつい最後までしてしまったのであった。しかも、何回も。
「ん……ん」
「……珠生?」
後部座席に寝かせかけた時、珠生がようやく目を開いた。
そして、薄暗い車内をぼんやりと見回した後、舜平をぼうっと見つめて、「あれ?」と言った。
「酔いつぶれて寝てたんやで。送っていくから、ベッドで寝ろよ」
「……舜平さん……、あれ、俺、飲み会……? あれ、俺……舜平さんとエッチしてたはずなのに……」
「……その後飲み会行って、酔いつぶれてたんや。湊に連絡もらったから、迎えにきてん」
「……あぁ、そう……」
珠生は後部座席に寝かされた状態で、ぎゅっと舜平の首に腕を回してしがみついてきた。狭い車内でもぞもぞしながら舜平に抱きついてくる珠生をなだめすかしながら、舜平は「こら、あかんで」と声をかける。
「……舜平さん……ねぇ、ここでしよ?」
「……えっ? い、いやいやいやいやいや、こんな人目のあるとこでなんて、あかん!」
「ねぇ……お願い。ちょっとだけ……」
「う」
ぽうっととろけるような目つきで舜平を見上げながら、珠生は熱っぽい声でそう訴えた。舜平の決意はあっさりと揺らぎ、今己が置かれている現状を確認しようと視線を巡らせる。
薄暗い地下駐車場の端っこ。後部座席の窓はスモークガラス。しかし前から覗き込めば、車内で二人が何をしているかなど、すぐにバレてしまうだろう……が。
――運転席の陰なら、平気かな……。
舜平は素早く頭の中でそんなことを考えると、寝そべってとろとろしている珠生を引き起こし、シートに座らせた。そして自分は珠生の膝の間に跪き、両手を取って珠生を見上げる。
「酔ってエロい気分になってんのか」
「……へ?」
「……まぁ、酔わせたんは俺のせいでもあるから、文句は言えへんけど……」
「何が? ねぇ……舜平さん、俺、したいよ……」
「……ったく」
珠生は焦れたような表情で眉根を寄せて、舜平をじっと見つめている。熱く熱く火照った指で、舜平と指を絡めながら、珠生は小首を傾げてため息をついた。
「……最後まではできひんけど、責任、とったるから」
「へ……?」
「しゃぶってやる。腰、あげて」
「え、ちょ……っ」
「隣で発情されてたんじゃ、俺もまともに運転できひんしな。……ほら、脱げ」
「んんっ……」
珠生を見上げながら、ジーパンのジッパーを下ろす。珠生は気恥ずかしそうに目を伏せていたが、少し腰を浮かせて、ズボンをずらす舜平の動きに従った。膝の下あたりまで一気に引き下げてしまうと、珠生のほっそりとした腰や、興奮状態でそそり立つ屹立が露わになる。舜平はニヤリと笑って、珠生の太ももにキスをした。
「あ……」
「なんもしてへんのに、勃ってるやん。まさか、彰にキスされそうになって、興奮してたんか?」
「……キス?」
「覚えてへんのか……。ほな、なんでこんななってんの?」
「ァっ……」
ジーパンをもっと下げ、軽く脚を開かせる。そして舜平は珠生の太ももの間に顔を寄せ、内ももにきつめのキスを降らせると、皮膚の薄い白い肌に、くっきりとしたキスマークが刻まれる。舜平はあえて屹立には触れず、そうして珠生の太ももに何度もなんども痕をつけ、舌を伸ばして肌を舐め上げた。すると珠生はその度に身体を震わせて、「ァ、んっ……」「ひゃっ……」と可愛い声を漏らすのだ。
「舜平……さん、ァ、ん……っ、ねぇ……」
「……何?」
「ふともも、ばっかじゃなくて……ンっ……ん」
「何? 早くしゃぶって欲しいん?」
「っ……ん、ぁあんっ……」
手を伸ばして珠生の尻を揉み、ひときわきつく太ももを吸い上げる。見る間に赤い痣だらけになってしまった珠生の太ももを舐めるのをやめ、舜平は顔を上げて珠生を見つめた。
目は潤み、頬は完全に火照って真っ赤だ。唇からはしどけないため息が漏れて、小さく腰を揺らしては、無言で先を強請る欲深さに煽られる。
珠生のペニスは、今までになく熱く硬く反り返っていた。鈴口からはとろりとした透明な体液がだらしなく漏れ、今にも弾けそうに震えている。
「舜平……さん、ねぇ……」
「どうして欲しいん? ここ、こんなにして」
「ぁ……」
ふうっと先端に息を吹きかけると、珠生はぶるっと全身を震わせて身悶えた。そして泣き出しそうな顔で舜平を見下ろし、震える唇でこんなことを言った。
「……ふぇ、」
「ん?」
「フェラ……して、ください……」
「なんやて? 聞こえへん」
「ぁあんっ……!」
焦らしつつ、舌を伸ばして珠生を見上げながら、もう一度太ももを舐める。すると珠生はいやいやをするように首を振り、はぁ、はぁと情欲の滲む吐息とともにこう言った。
「フェラ、して……欲しい。舜平さんの口で……気持ちよくして?」
「へぇ、素直に言えたやん」
「だって……もう、我慢できない……! 舜平さんのエッチな舌で、俺の、恥ずかしいところ……いっぱい舐めて……!」
「……っ」
熱に浮かされたような口調でそんなことを言う珠生のいやらしさに、舜平はぐらりとめまいを覚えた。
無言のまま身を乗り出し、珠生の片脚をジーパンから抜き去ると、片方の脚だけをシートの上で開かせる。そして、先端を尖らせた舌で、鈴口を濡らす体液を舐めた。
「ぁ、ぁああ……っ」
「恥ずかしい格好やな。あいつらになんか、見せられへんな……」
「ん、んんっ……」
「お前の味、めっちゃエロい。……こんなとこで興奮するなんて、いつからそんなにスケべな身体になったん?」
「ん、ん、っ……舜平さん……ぁ、ああ、」
ぺろぺろと竿を舌で愛撫しながら、先っぽをくりくりと可愛がる。珠生は両手で口を押さえて必死に声を殺しながらも、あられもなく露出した腰を小刻みに揺らしている。舜平はにやりと笑い、ぱっくりと珠生のそれを口内に迎え入れた。
「ぁ……っ!! ん、はぁっ……!」
じゅる、じゅぽ……っと敢えてのように音を響かせてやると、珠生の腰が大きく跳ねる。舜平は口をすぼめ、舌をねっとりと絡ませながら珠生のペニスを濃厚に愛し、時折先端をきつく吸う。
「いっち、ゃう……ッ、舜平さん……っ、ぁあ……きもちいいよぉ……ッ、んんっ」
珠生の切羽詰まった声に煽られるように、舜平は速度を上げて珠生をフェラチオで攻め立てた。珠生はもはや声を殺すことも忘れてしまったかのように、「あ、あ、あん、イイっ……すごい……ァんっ……!!」といやらしく乱れ、ほどなく舜平の喉に熱い飛沫を迸らせた。
「はぁっ……はぁ……っ……ンッ……」
仕上げとばかりに、珠生の精液を最後まで吸い上げると、舜平はゆっくりと珠生のそれを口から引き抜いた。珠生はシートの上で脚を開いたままというだらしのない格好で、とろとろに蕩けた表情で呆然と舜平を見つめている。
――エロ……。あかんな、このまま帰せへん……。無茶苦茶にしてやりたい……。
ムラっと湧いた急激な欲求をなんとか堪え、舜平は珠生の着衣を直してやった。陶然としたままの珠生の頭を撫で、「ごちそうさん」と言うと、珠生はかっと顔を赤くして、俯いてしまった。
「……あの、俺……」
「お前、酔うとよりエロくなるわけやな。……なるほどな、危険や」
「うう……でも! 普段はこんなことないし……」
「うん、俺が直前までヤリまくってたんがあかんねんな。それは分かってる……でも、エロいお前見てたら、またヤりたくなってしもたんやけど……」
「ん……」
後部座席で引っ付き合って座りながら、舜平はかぷりと珠生の耳たぶを噛んだ。珠生は素直にびくびくっと反応して、潤んだ瞳で舜平を見上げている。
「……俺も、したい」
「ほんま? 身体、しんどない?」
「大丈夫。……このまま、ここでしたいくらいだ」
「ははっ、エロいこと言うやん」
舜平に頭を撫でられ、珠生ははにかんだように微笑んだ。
「今夜は、ひどくして欲しいな。……ちょっと乱暴にされたい気分」
「はぁ? ……お前はまったく……」
「だめ?」
「ダメじゃないけど。ちょうど俺も、お前のことめっちゃくちゃにしたいなって思ってたとこやし」
「へへ」
二人は見つめ合って軽くキスをした後、運転席と助手席に席を移した。
そしてそのまま、夜の街へと走り出したのであった。
おしまい
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