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『夜桜と散歩』〈3〉

  「ん……んっ……ぅ……ぁ」 「珠生……なんで声、我慢してんの?」 「だって……じっか、だし……っ」 「誰もいいひんから、大丈夫やで? ……それとも、俺の攻め方が足りひんのか?」 「あっ!!」  舜平のベッドの上に四つ這いにされ、貫かれ、同時に前も扱かれる。舜平の逞しいもので最奥をいじめられながら、鈴口をくにくにと弄られて、珠生は思わず仰け反って声をあげた。 「ぁ、やだ、それ……っ、まえ、触らないで……っ」 「なんでや」 「すぐイっちゃう……でちゃうから……」 「我慢せんでええよ……ほら、こんなに硬くなってるやん」 「ぁ、あんっ……!! ふぁ……っ」  ゆっくりと抽送される舜平のペニスが、珠生のいいところを余すところなく刺激する。珠生はだらしなく口を開いて荒い吐息を漏らしながら、浅ましく腰を振って与えられる快楽を貪った。 「ぁぁ、あ、あ、あん、ん」 「お前の腰……めっちゃエロい。こんなかわいい顔して、セックスの時はこんなにエロいなんて……ほんまに、最高やな」 「ぁ、やぁっ……あぁ、あん、ンっ」 「バックもええけど、顔見えへんのは寂しいな。……こっち向いて、珠生」 「んぁ、あっ……や、やだよ……っ」  舜平はそう言って、腰を引いてペニスを抜いた。とろとろにとろけた表情で、涎を垂らしながらセックスに耽っている顔など見られたくない……と思いつつも、もう一度舜平に中を満たされたくて、激しく激しく求められたくて、珠生は自分から進んで体位を変え、正面から舜平を迎え入れようと脚を開く。  そんな珠生の動作を見て、舜平はうっそりと目を細めて微笑んだ。珠生の膝裏を掴んでさらに脚を開かせると、反り返っている珠生のそれに己の怒張を擦り寄せながら、食らいつくようなキスをした。 「んっ……ふぅ……ッん……」 「かわいいな、お前は」 「しゅんぺいさ……ん、挿れて、いれてよぉ……っ!」 「もっと上手に、おねだりしてみろ」 「ァんっ……焦らさないでよっ……ンっ、んっ……」  ぬちぬちと脚の付け根を舜平のペニスで擦り上げられ、珠生はぞくぞくと全身を震わせた。同時に口内を余すところなく愛撫され、器用に胸の尖までもをいじられた。 「ぁ、ああっ……やだ、ちくび、いや……っ」 「焦らされるん、好きやろ、お前は」 「ぁ、あああ、っ……!」 「このままこっちでイく? それとも、中がいい?」 「や、あ、あっ、」  舜平の手に握り込まれ、上下に擦られる。ぐちょぐちょといやらしい水音が溢れるほどには、珠生のペニスからも体液が溢れているらしい。珠生は声を我慢することも忘れてあれれもなく乱れ、半ば泣き声に近い声で舜平に訴えた。 「ナカで、イきたい……! しゅんぺい、さんの、かたくておっきいの、挿れてよぉ……っ」 「ふふ……ええな、それ」 「はやく、はやく挿れてよぉ……っ、なか、じんじんして……も、俺っ……」 「エロい身体になったもんやな」  舜平は満足げに微笑み、形のいい唇をぺろりと舐めた。そして、指先に付着した珠生の体液を舐め取りながら、舜平はもう一度珠生の中に屹立を突き立てる。 「ああ……ン、ンっ……!!」 「ほんまや……うまそうに、締め付けて……」 「あ、あ、あっ……や、も……も、イくっ……イくぅ……!!」 「挿れただけやで?」 「だって、気持ちいい……きもちいぃよお……っぁ、あ、あ……!!」  白い身体を紅色に染め、ベッドの上で身をくねらせる珠生を突き上げながら、舜平はうっとりと微笑んだ。細い腰を両手でしっかりと捕まえて荒々しく腰を使うと、珠生の中はきゅんと甘く舜平を締めつけながら、「ぁ、あン、あぁ……!」とあられもなく乱れ狂ってくれるのだ。  愛らしい顔を淫らに歪めながら舜平を見上げる珠生と、目が合った。その瞬間、珠生の目から涙が伝う。舜平はさらに激しく珠生を攻め立て、とろとろと体液を溢れさせながら中で絶頂する珠生としっかりと手を結んだ。 「しゅんぺいさ……っ、ぁ、まって……まって……!」 「ごめ……待てへん、俺もイキそ……」 「ぁ、ぁ、んぁ、あっ! や、ぁあんっ……ンっ……!」 「イくっ……んっ…………」  求められるまま珠生の中に射精すると、珠生は両足を舜平の腰に絡みつかせて、下からぎゅっとしがみついてくれる。しびれるような快感に腰が砕けそうになるのを堪え、舜平は珠生を押しつぶしてしまわないように両腕をついた。 「はぁっ……はぁ……は……」 「舜平……さん……」 「ん……?」 「ほんとに、誰も帰ってこない……?」 「え? ああ……気になるか?」  絶頂して少し冷静さを取り戻したのか、珠生は陶然とした表情を浮かべつつも、あたりを窺うような目つきをしていた。舜平はずるりと珠生からペニスを抜き、乱れに乱れた自分のベッドと部屋を見回す。もぞりと起き上がった珠生も、脱ぎ散らかされた服や床に転がっているローションのチューブなどを見つつ、気まずそうに頬を染めている。 「……ごめん、実家でこんなことしちゃって」 「なんでお前が謝んねん。それに、俺もいっつもお前んちで散々……」 「そ、そうだけどさ。舜平さんちはご家族も多いから、なんとなく……」 「気にせんでいいって。とりあえず、シャワー浴びるか?」 「うん」 「泊まって行ってもいいんやで?」 「どうしようかな……」 「まぁ、風呂入りながらのんびり考えてくれ。明日もバイトか?」 「ううん、大学に絵を描きに行くくらい」 「そっか。ほんならゆっくりしていったらええで」 「う、うん。……取りあえず、シャワー行ってくる」 「おう。後でタオルとか着替え、出しとくから」 「ありがとう」  一度泊まりに来たことがあるため、珠生はバスルームの位置を聞くこともなく階段を降りて行った。舜平はひとまず部屋を片付けようと、新しい下着を履いてTシャツを身につけ、窓を開けた。濡れたシーツを剥がし、洗濯に回すものをがさごそとまとめていると、階下で珠生がシャワーを使っている音が微かに聞こえてくる。  夜桜の下で見た珠生の怒った顔や安堵した顔、ベッドの上で乱れるいやらしい表情を思い出すにつけ、舜平の胸はきゅと甘く疼くのである。 「……ほんま、かわいいやつ」  関西で働ける場所を頑張って探した甲斐があったものだ、と舜平は思った。珠生があんなにも必死になって自分を求めてくれたことが嬉しくて、幸せで、ついつい顔が緩んでしまう。 「……泊まってってくれへんかなぁ。でも……横におったら手ぇだしてまうかな……うーん」 と、のんびりした悩みを頭の中で転がしていると、開けた窓の外から、聞き覚えのあるエンジン音が聞こえて来た。  舜平は硬直する。  じゃりじゃり、と砂利を踏んで停車する音。エンジンが切れる音……舜平は思わず窓から身を乗り出し、庭先に停まっている白いミニバンを見下ろした。それは、主に将太が使っている車である。 「あ……兄貴……!? なんでもう帰って来てんねん!!」  舜平は大慌てで階段を降り、風呂場の方へと足を向けた。舜平の自宅の間取りは、玄関から風呂場まで、まっすぐ廊下一本でつながっているという最悪の配置である。  そして案の定、舜平が風呂場にいる珠生に声をかける前に、玄関のドアが開いた。そして将太が舜平を見て、ちょっと面食らったような顔をしている。 「なんやお前。おったんか」 「おおお、おかえり兄貴!! あれ!? 泊まりとちゃうん!?」 「俺、明日朝から用事あんねん。宴会の最初だけちょっとお酌して回って、帰って来たんや」 「あ、そ、そうなんだ……ふーん……」 「てか、何? そこどいてぇな。家入れへんやん」 「お、おう……」 「あーあ、酒の匂いうつってるわ。風呂、(お湯)入ってる?」 「は、入ってる入ってる(珠生が)!!」 「ほな、俺も入らせてもらうわ」 「ちょ、ちょう待って!! お、俺……あの、今風呂場は!!」 「ん? お前まだ入ってへんの?」 「入ってへんっていうかその……!!」 「なんやねんハッキリせぇへんな。体冷えて寒いし早く、」 「舜平さん。着替えってどこ……」  ガラリ、と風呂場と廊下をつなぐ引き戸が開き、腰にタオルを巻いただけという格好の珠生が顔を出した。  そして玄関先で揉み合っている相田兄弟を見るや、風呂上がりで火照っていた珠生の顔が、サッと青くなる。そして湯上り卵肌の珠生の半裸を見て、将太はぱちぱちと目を瞬き、ぽっと頬を赤くした。 「……た、珠生、くん?」 「あっ、え、あっ、あの、お、お邪魔してます……!!」 「あっ、うん、えっと、うん、よ、よう来たね」 「す、すみません俺!! か、帰ります!!」 「いやいやいやなんでやねん!! 別に慌てて帰らんでもええって。もう……知ってるし……」  すっかり気が動転している珠生を落ち着けようとしているのか、将太はごほごほと咳払いしながらそう言った。すると今度は舜平が将太の胸ぐらをぐわっと掴んだ。 「え!? どういうこと!? 兄貴が何を知ってるて!?」 「おい、やめぇや苦しいねん! てか、お前ら付き合ってんねやろ? まぁ……そら、そういうこともあるやろうなて……」 「そういうことって!? えっ、いつからそんな……」 「あんなぁ、お前の態度見とったらバレバレやねん。っていうか、慌てすぎ。別に男友達がうち来てシャワー浴びてるだけやのに、あんな慌てて俺の足止めせんでもええやろ、普通。やましいことがあるって自己申告しとるようなもんやで」 「ぐぬ……」  珍しく、舜平が言い負かされて口をつぐんでいる。珠生はそろそろと風呂場に引っ込み、「すみません、あの……とりあえず服貸してもらえますか」と言った。 「お、おう……ちょう待っとけ」 「ほな俺、お茶でも淹れといたるわ。お土産に饅頭もろたから、ひとつくらい食べていき」 「……はぁ、ありがとうございます」  珠生に着替えを渡し、台所に戻って来た舜平に、将太は饅頭入りの紙袋を押し付けた。そして、小首を傾げてにっこり笑う。 「な、何……?」 「珠生くん、うち泊まる?」 「いや、今日は帰ろうかなて言うとったけど……」 「えー、いいやん。もう遅いし、泊まってもらえば」 「けどなぁ……」 「まぁまぁ、三人でお茶でもしばこうや。おとんとおかんには黙っといたるから」 「まぁ……そっちのほうがええけど」 「ようやくお前の口から色々聞けんねんなぁ。楽しみやな〜」 「な、何をやねん」 「珠生くんなら、俺、大歓迎やしな。そんな顔せんでええって」  そう言って、将太がばしばしと舜平の背中を叩くと、ぎこちなくこわばっていた舜平の顔がほんの少し緩んだ。将太は笑って、自分よりも背の高い弟の頭をわしわしと撫でる。 「……ほんま?」 「おう。可愛い弟が幸せなら、俺も嬉しいっちゅーこっちゃ」 「……兄貴」 「酒でもいいで? どうする?」 「いやいや、あいつ飲ますとめんどいから」 「そうなんや。逆に見てみたいなぁ〜」 「い、いや、あかん。また今度や!」 「ふ〜〜〜ん、そっか。楽しみにしてるわ」 「……」  舜平がうりうりと脇腹を突かれているところに、ぶかぶかのTシャツにハーフパンツという格好の珠生が、こそこそと現れた。  机の上のほうじ茶が、ふわふわと湯気を立てている。  おしまい♡

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