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美形に囲まれる葉山の煩悶

 思いつきと息抜きで、葉山さんのお話を少々。イメージ違ったらごめんなさい(・∀・;) ˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚˚✧₊⁎⁎⁺˳✧༚✩⑅⋆˚  私は葉山彩音、三十…………年齢は非公開。  宮内庁特別警護担当官として、慌ただしい日々を送っている。  + 「では、以上だ。今日のミーティングは終了する。引き続き、京都御苑周辺の霊障騒ぎには目を光らせておくように」 「了解しました」  とある日、私はいつものようにグランヴァルホテルの一室での会議に出席中。今日、常盤は東京出張に出ていて、珍しく藤原さんが若者たちの指揮を指揮をとっていたの。  祓い人の事件が一段落して半年あまりが経ち、能登が次第に落ち着きを取り戻し始めた頃、京都御苑付近で小さな霊障が起こるようになったわ。といっても、これは大したことではないのよ。この程度の小さな事件は、三日に一回ほどのペースで起こっていて、我々にとっては日常茶飯事なのだから。  結局、この後珠生くんと舜平くが出張ってカタをつけるということで話は終わり、会議に出て来ていた面々はそれぞれにくつろいだ空気を漂わせているわ。  ちなみに今日の出席者は、珠生くん、舜平くん、湊くん、そして彰くんと藤原さん。亜樹ちゃんは大学での実習が入っているという理由で今日は欠席。服飾専門学校に進学するにあたっての学内考査で見事赤点を取ってしまった深春くんも補習で欠席と、いうこの場には今、男が五人。それぞれタイプの違うイケメンが五人……はぁ、本当に素晴らしい職場だと思わない?  危険なことは多いし、勤務時間は不規則極まりないけど、本当に、素晴らしい職場環境なのよね……。 「珠生、明日は空いてる? ご飯食べに行かない?」 「え? あ、うん、いいよ。どうしたの? 先輩が誘ってくるなんて珍しいね」 「実は、父がキッチンを軽く燃やしてしまってね、今家で食事が作れないんだ」 「えええ!? だ、大丈夫なの!?」 「うん、平気。すぐに術を使って鎮火したから大ごとにはなってないから。あはは」 「あははじゃないよ……」  あら、彰くんたらまた珠生くんにベタベタしてるわ。親しげに珠生くんの肩を抱いたりなんかして……まったく、ほら、藤原さんと真面目な話をしている舜平くんが気が気じゃないって顔してるじゃないの。まったく……どうしてあの子はいけしゃあしゃあと意地の悪いことをしちゃうのかしらね。それに一応、私は彼の恋人という立場なのに、私の目の前であんな風に珠生くんにベタベタするとか。……全く……全く本当に……。  ほんっと…………萌えるわ…………。  これまでの私は、別に男性同士の絡み合いに興味を抱くような趣味はなかったわ。中高時代は腐女子と呼ばれる類の友人はいたけど、それはそれこれはこれ、という感じで、別段何かを感じることもなかったの。その頃の私は修行で忙しかったし、そういうことに関心を抱く暇もなかったと言った方が正しいかもしれないわね。  でもね……十六夜の一件以来、突如として私の周りには、美少年・美青年が増えたわ。しかも、そんじょそこらのイケメンじゃない。芸能人顔負けの、ちょっとびっくりするくらいのイケメンたちが、私の周囲にわんさかと現れたわけよ。  みんな年下だから、ときめくとかそういう感情を抱いたことはなかったんだけど……。なんていうの? 普段はのほほんとした雰囲気の珠生くんが、目を吊り上げて凛々しく戦ってみたりとか? 普段は生意気なだけの彰くんが、私なんかじゃ到底扱えないような凄技を繰り出してみたりとか? 普段は爽やかお兄さんタイプの舜平くんが、敵意むき出しで(主に珠生くんのために)荒々しく敵を薙ぎ払う姿とか? 普段いつもクールな湊くんが、ここぞというところでおいしいとこ全部持っていっちゃうかっこよさとか……?  とにかく…………素晴らしいのよ。ほんと、素晴らしいわ。素晴らしいとしか言いようがないと思うの。  ごめんなさい、私ときたら、語彙力が貧困で……。なんというか、もう、当てはまる言葉が浮かばないくらい素晴らしい光景なわけよね。  それにね、それだけじゃないわ。  イケメン同士の仲睦まじい関わり合い……これがまた、本当に素晴らしいのよね。  私はいつも、涼しげな顔をして彼らの動向を見守るよう心がけているわけだけれど、舜平くんが珠生くんのために色々頑張っちゃったりする姿とか、ほんっと…………素晴らしいというか、もう……尊い……。  珠生くんの美貌とお色気は、自分が女であることを恥ずかしく思ってしまうほどに素晴らしいものなわけ。悪者相手にはゴリゴリ攻めていた珠生くんも、敵を追い払った後は傷ついたり、血だらけになったり、ぐったりとかしちゃうわけ。不謹慎ながら、珠生くんのそういう二面性にも私は激しく萌えてしまうわけなんだけれども、そこに舜平くんという絶世の爽やかイケメンが加わることで、萌えと萌えが掛け合わさって、そりゃあもう凄まじい破壊力の萌えが降臨するというわけ……。  珠生くんは珠生くんで、舜平くんのこととなると目の色変わって凄まじい攻め方をしたりとかするじゃない? もう……これに萌えずになにに萌えろというのか……。  ええ、ごめんなさい。私、さっきから何を言っているのかしらね。  とにかく、何が言いたいのかというと、前世からひっくるめて、彼らの存在が途方もなく尊いということ…………宮内庁最高……。 「っていうか、葉山さんとご飯行けばいいのに」  あらやだ、珠生くんの声で私、我に返ったわ。珠生くん、私のことを気にしてくれているみたい。優しいわよね。 「ああ、葉山さん、明日は夜勤だからいないんだよね」 「あ、そうなんだ」  ええ、そうなの。私、今は彼らに背を向けてテーブルの片付けなんかをしているんだけど、私明日は御所周辺の妖退治で夜勤なの。だから存分に彰くんと珠生くんはデート……ではなく、ご飯でもなんでも食べに言ったらいいと思うのよ。舜平くんさえ怒らなければ……。  と思いながらちらりと舜平くんを盗み見ると、ほら、案の定よ。藤原さんとの話もそこそこに、つかつか彰くんに近寄って、珠生くんの肩を抱いていた手をぐいと外させたわ。もう、本当にやきもちやきね。そういうとこ、すごく可愛いと思うわ。 「おい、俺の目の前で堂々と珠生にセクハラすんなや」 「セクハラ? 何を言ってるんだい? 僕は友人の肩を抱いているだけじゃないか」 「ぐぬ……。そ、その割には珠生に触る手つきがいやらしいねん」 「いやらしいって? 君が僕らの関係を変なふうに勘ぐっているからそう見えるだけなんじゃないのかな? 君は本当に助平だな」 「だ、誰がスケベやねん!!」 「舜平、うっさいねん。声でかいわ」 「うぐぐ、湊まで……」  てきぱきと私の手伝いをしてくれていた湊くんが、声が大きくなり始めた舜平くんにぴしり。呆れ果てたような顔で黒縁メガネを押し上げる姿、本当にキマってるわね。  そうそう、湊くんと珠生くんの純然たる友情にも、私は萌えを感じずにはいられないのよね。湊くんに懐く珠生くんたら、飼い主の膝でごろごろ甘える猫のようじゃない? 二人の間には清々しい友情しかないってことは分かっているけど、クールに珠生くんを甘やかす湊くんとか、無防備に幼い顔を見せちゃう珠生くんの関係とか、もうなんというか、すべからく素晴らしいと思うわ……。 「葉山さん、どないしたんですか」 「えっ、な、なにが!?」  やいのやいの言っている彰くんたち三人を眺めては湊くんの横顔見てため息をついている私に、湊くんが心配そうな顔で声をかけてくれたわ。私の表情にいちいち気づいて、こうして気遣ってくれる紳士的なところ、本当に優しくて素敵よね。でも今の私、湊くんに心配してもらうことすらおこがましいわよね……。だって、美青年たちが珠生くんという美少年を巡って喧嘩している様子に、ただ単に萌え苦しんでいるだけなんだもの。 「熱でもあらはるんですか?」 「い、い、いいいえ!? そんなことないわよ。あー、今日は暑いわね」 「俺は肌寒いと思いますけど」 「そ、そう? あ、手伝いどうもありがとう。あなたは本当に気が利くわね」 「いいえ」  そう言って、じ……と私を見つめてくる湊くんの目、深いわ……。なんだか、心の奥底まで見透かされているような気分になってくるわね。や、やめて、そんな目で私を見ないで欲しいわ。 「それなら!! みんなでご飯行けばいいんじゃない!? っていうかもう、暑苦しいから喧嘩しないでよ二人とも!」  あら、珠生くんの鶴の一声で彰くんと舜平くんの喧嘩(正確には彰くんの舜平くん遊び)が終わったようね。やれやれ、いつものことながら、この子たちも飽きないわねぇ。喧嘩するほど仲がいいって、こういうことを言うのかしら?  ここに墨田や佐久間さんがいたら、もっとややこしい事態になっていたんでしょうけど……ほんと、珠生くんてモテるから、舜平くんも困っちゃうわよね。佐久間さんなんて、入庁した頃は合コン合コンって女の子のお尻ばかり追いかけていたのに、今じゃ珠生くんの大ファンだもの。もし本当に珠生くんが宮内庁に入ってきたら、佐久間さん、きっといろんな意味で道を踏み外すでしょうね……。あぁ……それはそれで美味し……。  だ、だめよ!! 何を考えているの私!! 職員全員が働きやすい職場になるよう努力しなきゃいけないのに、破廉恥なトラブルを心待ちにするなんてありえないわ!!  ああ、だめよだめよ!! イケメンたちに囲まれていると、私の陰陽師魂が腐ってしまう……!! 「藤原さん!」 「んっ!? な、なんだ葉山。びっくりするだろ」 「この後、修行に付き合ってもらえませんか!?」 「え? この後か? それは構わないが……どうしたんだいきなり」 「ちょっと自分を戒めたいんです。ご教授、よろしくお願いします」 「ほう、さすがだな、葉山。よし、じゃあ道場に行こう」 「はい」  鼻息も荒くそんなことを言う私を、美青年たちがびっくりしたような目で見ているわ。……やめて、そんな仰ぎ見るような目つきで私を見ないで。 「さすが葉山さん……ストイックだなぁ」  と、珠生くん。 「ほんまや。俺、なんや自分が情けなくなってきたわ……俺も修行しよ」  と、舜平くん。 「ストレス発散なら、僕も付き合いますよ?」  と、彰くんが微笑みつつそんなことを言ってくれちゃう隣で、湊くんはくいっと眼鏡を押し上げて、私を意味ありげに見つめているわ……。バレてる、絶対この子にはバレてるわ。眼鏡、光ってるもの。 「ストレス発散とかじゃないわよ。私はね、純粋に自分を戒めたいの。あなたたちはもう帰りなさい。いいわね」 「はい」  素直にいい返事をしてくれる珠生くんと舜平くん、そしてそんな二人の後に付いて部屋を出て行く彰くん、そして去り際、私に向かって意味深な眼差しを投げかけてから去っていく湊くん……。 「よし、私たちも出よう。手加減はなしだからな」 「望むところです」  バサ……っと黒いジャケットを羽織って凛々しく微笑む藤原さんもまた素晴らしい美中年で……。  うん……ここ、本当に素晴らしい職場よね……。  おしまい

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