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『親友の結婚式』〈3〉

  「そういえば、結婚式って何着ていけばいいんだろ」  シャワーを浴びて戻ってきた珠生が、ふとそんなことを呟いた。ベッドの上に寝っ転がり、たまっていたプライベートなメールに返信を書いていた舜平は、顔を上げて珠生を見遣る。 「まぁ、普通はスーツやけど。仕事の黒服で行くのはちょっといただけへんなぁ」 「だよなぁ……俺、仕事用のしか持ってないんだ。買いに行かなきゃ」 「お前があんま着飾ると湊より目立つから、ほどほどのやつにせなあかんで」 「いや、着飾らないし」  製薬会社に勤務していた頃に借りていた伏見のマンションに、舜平はまだ住んでいる。近々、もっと御所に近い場所で家を探すつもりではいるのだが、賃貸契約を更新したばかりでもあるため、あと一年はここに住もうと思っている次第だ。  東京出張を終えた後から、珠生がここへ泊まりに来る回数はかなり増えた。徐々に珠生の私物が増えていっているため、部屋は以前より手狭になりつつあるが、それが同時に嬉しいのだ。  結局、東京ではそれぞれ一室ずつ部屋を割り振られていた上、舜平の部屋の隣には高遠が宿泊していたため、二人はおとなしく過ごさざるをえなかったのであった。  しかも、長官との面会のあと、皇居周辺の守りについての説明を受けたり、東京事務所の面々を紹介されたり、舜平の歓迎会兼顔合わせが盛り込まれていたりとハードスケジュールで、ホテルに戻る頃には日付が変わりかけていた。その次の日も、朝から特別警護担当課が重点的に見回りを課せられているスポットを車で回るという仕事が詰まっていたため、二人はおとなしく夜を過ごすしかなかったのである。  東京は人の数があまりに多く、珠生にとってはえらく疲れる出張になったらしい。舜平は何度か学会で東京に来る機会もあったし、人混みや騒音などは大して気にはならないが、珠生はぐったりと疲れていた。帰りの新幹線には高遠もいたが、三人席の窓際で、珠生はすうすう寝息を立てて眠っていたものである。  そんな珠生の姿を見守っていると、ようやく自分も特別警護担当官の一員になれたのだなという実感が湧いて来た。高遠もまた舜平の入庁をとても喜んでくれていて、珠生が眠る横で二人は缶ビールをぶつけ合った。 「常盤もすごく喜んでたよ。ああいう性格だから、分かりにくいとは思うけど」 「そうですね。……けどまぁ、常盤さんももうすぐスウェーデンやし、高飛車にいびられる機会が減るのかと思うと、ちょっと寂しくもありますね」 「それもそうだね。ま、彼女は立派に務めを果たしてくれるだろうし、安心して送り出せるよ。むしろ僕が本部長の仕事をきちんとこなせるかどうか不安っていうか……」 「ええ? 意外っすね、高遠さんがそんなこと言わはるなんて」 「そうかなぁ?」  高遠はぐびりと缶ビールを飲み、つまみにと買ったナッツをぽりぽりと噛んだ。舜平の目には、高遠は十分に有能な人物に見えるし、地位が変わっても、誰とでもそつなくこなしているように見えたのだ。慣れた相手とのんびり酒を飲んでいるせいか、高遠の発言はいつになく気弱である。 「だってさぁ、ずっと藤原さんがやってたわけだよ? 藤原さんは長官や次長とも入庁時期が近かったらあんな風に自由にやれてたわけだし……」 「まぁ、そうですねぇ」 「常盤はああいう性格だから、事務次官にネチネチ予算がどうのこうのと言われても戦えてこれてたわけだけど……僕はずっと能登支部でのんびりやってただけだから、いきなり本陣で戦うってのはなかなかに荷が重いわけだよ」 「分からんではないですけど……。俺は、今回の東京出張で、高遠さんの後ろ姿が藤原さんとダブって見えたりしましたよ? 事務次官は確かにネチっこいオヤジやったけど、余裕で渡り合ってる感じやったし」 「そうかなぁ……まぁ、いざそういう場面に行き当たったら、それなりに戦えるは戦えるんだけどさぁ……疲れるんだよねぇ。早く子どもの顔が見たいよ」 「お子さん、今おいくつにならはったんでしたっけ?」 「上がもうすぐ五歳で……あ、下が最近生まれてさぁ。だからもっと家にいたいんだけど、今後は京都と東京の往復が増えそうで……それも憂鬱だなぁ。嫁さんの機嫌も悪いしさ」 「大変ですねぇ……」 「能登から京都に引っ越すってだけでも大変だからさ〜……はぁ、すぐにでも君とポジションを変わりたいよ……」 「いやそれはさすがに無理でしょ」 「いやいや、舜平くんは世渡り上手だし、絶対大丈夫だよ〜。それかこんな面倒なこと藍沢あたりに押し付けて、僕はのんびり妖退治だけしていたいんだよねぇ」 「藍沢さんかぁ……あの人には無理なんちゃいます? 余計なことばっか言いそうやけどなぁ」 「んーまぁ、そうだなぁ……。舜平くんなら絶対適任なんだけどなぁ、あと四、五年したらすぐ交代……………………ぐう」 「……ん? ね、寝てはる」  高遠も、随分と疲れているらしい。  両サイドが眠ってしまったため、舜平は珠生の寝顔を眺めつつ、一人で缶ビールを傾けたのであった。 +  そんなことを思い返しながら、舜平は濡れた髪を拭う珠生の後ろ姿を眺めていた。その時ふと、スマートフォンが震えていることに気がつく。見れば、北崎悠一郎からのメールである。 「北崎や。……へぇ、あいつ、湊の結婚式担当することになったらしいで」 「へぇ〜、そうなんだ。楽しみだね」 「なんか本格的に同窓会みたいやな。お前も、北崎と会うてへんねやろ?」 「そうなんだよね。撮影旅行とか、懐かしいなぁ……」  珠生は悠一郎との昔をのんびりと語り始めているのだが、よく見ると珠生は舜平の貸したTシャツ一枚しか着ていない様子である。それに気づいた舜平は、もはや悠一郎の話題など耳半分だ。  尻の少し下あたりまでしか隠すことができていない白いTシャツから、白く艶かしい脚が伸びている。珠生が身動きをするたびにちらちらと裾が揺れ、下着が見えるか見えないかという際どさだ。 「またどこか遠出……って、舜平さん、聞いてる?」 「珠生お前……パンツ履いてへんの?」 「は!? な、なんなんだよ急に!」 「いや……そのカッコ、めっちゃエロいなと思って」 「真面目な顔で何言ってんだよ変態。履いてるに決まってんじゃん」 「ふうん……こっち来い、珠生」 「……」  珠生に生ぬるい目つきを向けられることにも慣れているため、舜平はベッドの上で肘枕をし、ぽんぽんと半分空いたマットレスの上を叩いた。それでも動かない珠生を見上げ、舜平は優しい笑みを浮かべつつ「おいでや」と言った。すると珠生はほんのりと頬を染め、どこかふてくされたような顔をしつつも、舜平の隣に腰を下ろした。 「いきなりエロオヤジ発言するんだからなぁ」 「エロオヤジはないやろ」 「ちょっ……待っ、」  ベッドに珠生を引き倒し、しなやかな肢体を組み敷く。白いシャツが捲れあがり、引き締まった太ももと淡いグレーのボクサーパンツが露わになった。手のひらで太ももを撫でながら珠生の首筋にキスを落としつつ、舜平はこう囁いた。 「普段スーツやしさ、そんなかっこしてると、めっちゃエロく見えんねん」 「ぅ、んっ……そうかな……」 「スーツのお前も相当エロいけどな。でも……お前は白い服、よう似合う」 「ぁっ……」 「珠生……好きやで」  めくれ上がったシャツの裾から手を挿しこみ、珠生の平たい腹を撫でる。そのまま上へ上へと指を這わせて、すでにつんと尖った乳首を捏ねると、珠生はびくんと全身を震わせて、唇を噛んで声を殺した。 「んっ……っ……」 「次引っ越すときは……もっと防音のいい部屋にせなかあんな」 「……ぼう、おん……?」 「だってお前、めっちゃ声気にするやんか。そんな頑張って我慢せんでもいいのに」 「だって、……ぁ、はぅ……っ……」  ちゅ……っとわざとらしくリップ音を立てながら乳首を吸い、見せつけるように舌を伸ばして、そこを舐め上げる。すると珠生はさらに顔を赤くして、色香の溢れる吐息を漏らした。 「は……恥ずかしいだろ、聞かれたら……っ……」 「まぁな。せやけどお前、挿れられてからは全然我慢できてへんって知ってた?」 「だ、だって……」  薄桃色の尖りを唾液で濡らし、気恥ずかしげに目を伏せる珠生の姿は、あまりにも淫らだ。湯上がりの白い肌はただでさえ色っぽいのに、ほんの少し愛撫を与えられただけで艶を増す柔らかな手触りは、舜平の劣情を否応なしに煽ってくる。  舜平は唇をつり上げて笑みを浮かべると、珠生の唇に深いキスをした。  するりと首に絡まってくる珠生の腕を心地よく感じながら、何度も何度も唇を重ね、舌を絡めあう。珠生の吐息が徐々に高まってゆくのに誘われ、舜平の肌もますます熱を上げてゆくのである。 「ん……ンっ……ぁ……ん」 「珠生……」 「ん……? っ……ぁ、ふ……」  舜平は唇から顎へ、そして首筋、胸元へ……とキスする場所を少しずつ下へと移していった。くぼんだへそを舌先でくすぐると、珠生はちょっと身をよじって微かに笑う。  下着の中で屹立しているペニスを布越しに軽く食むと、珠生はぴくりと腰を震わせ、潤んだ瞳で舜平を見下ろした。  とろけるような表情を浮かべた珠生をちらりと見上げ、口元に笑みを浮かべる。そして珠生の腰を掴んでぐいと引き寄せると、ベッドの上にうつ伏せにした。 「あっ……な、何すっ……」  うつ伏せになった拍子にTシャツがずり下がり、しなやかな背中と細い腰、そして小ぶりな尻が露わになる。美しい稜線を描く珠生の背中をゆっくりと撫でおろし、舜平は双丘を覆うボクサーに指をかけた。 「……ん、舜平さん……っ……」 「綺麗な肌やな。高校生の頃と、なんも変わらへん」 「ぁっ……やめろよっ……! こんな、明るいのに……!!」  するりと下着をずらし、白い肌に舌を這わせる。珠生は腰をよじって抵抗の意思を示していたが、舜平の熱い舌でそこを舐め上げられた途端、すぐにふにゃりと腰砕けになっている。 「や、めっ……やだよ、舐めるなんて……っ……!」 「こうしてほしくて、風呂で慣らしてきたんやろ」 「ちっ……ちがうよ!! ……あ、ん……!」 「自分でせんでも、俺がするのに」 「やっ……ァっ、そんなとこ、」  白い尻たぶを掴んで押し開き、いつも舜平の怒張を咥え込んでいる小さな窄まりに舌を伸ばす。珠生は言葉では「や、やめてよ……!!」と抵抗を続けているものの、そこはひくひくと嬉しそうにひくついて、舜平を欲して熱くとろけはじめている。 「ん、んっ……ァっ……ぁん」  気づけば、下着は膝のあたりまでずり下がっている。珠生の屹立も、四つ這いになった腹の下でそそり立ち、とろとろとよだれを垂らしていた。  珠生の腰が、ゆらゆらと快楽を求めていやらしく蠢き始めるのを見て、舜平はわざとらしく水音を立てながら唇を離し、ほんのりと紅潮している珠生の尻を撫でた。 「エロいな……」 「も……やめてって、言ってんのに……!」 「やめてほしいなんて思ってへんくせに。腰、動きまくってたで」 「っ……そ、そんなこと……」 「今だって、物欲しそうにひくついてる。……ほら、分かるやろ」 「ぁあっ……ンっ」  舜平の唾液に濡れ、淫靡に艶めいた珠生の孔に指を浅く挿入する。すると珠生の内壁は、喜び勇んで舜平の指に絡みついてくるのである。舜平はハーフパンツを下げ、硬く反りかえったペニスの先端で、珠生のそこをちゅくちゅくと弄ってやった。  そして、今日は珠生を焦らすことなく、すぐに珠生の中へ切っ先を押し進めた。  晴れて特別警護担当官となり、昔のように珠生と戦えるようになってからというもの、舜平は以前にも増して珠生を求めるようになっていた。  この道を選ぶべきかどうかと迷っていた頃は、セックスの回数が減っていた。珠生も舜平に対してどことなく遠慮がちだったし、多忙さも手伝って、なかなか行為に集中することができないでいたのだ。    でも、今はその壁が消え去った。珠生と人生を共にできることが幸せで、昔のように素直に甘えてくれる珠生が可愛くて、愛おしくて愛おしくて、たまらないのだ。 「ああっ……!! ァんっ……!」 「……はぁ……っ……すごいな……」  ゆっくりと飲み込まれる己の怒張を見下ろしつつ、舜平は唇を引き締めて快楽を飲み込む。気を抜けば、珠生の中の気持ち良さに誘われるまま、荒々しく腰を振ってしまいそうになるからだ。  大して慣らしてもいないのに、珠生の窄まりは健気に舜平の肉を飲み込み、中へ中へと誘うようにひくついている。珠生は枕に顔を埋めて腰を突き出し、ぎゅっとシーツを握りしめながらも、ゆらゆらと淫らに腰を振るのだ。 「エロ……」 「うっ……ァっ……ぁ、あ、あっ」 「はっ……はぁっ……めっちゃイイな……」 「ぁ、あぁ……舜平、さん……」 「珠生……好きやで」 「おれも……すき……すきだよ……」  珠生はゆっくりと横顔で舜平を振り返り、涙と快楽できらめく瞳をこちらに向けた。その表情がたまらなく可愛くて、舜平は珠生の背中に覆い被さり、最奥を貫いた。背中をしならせ甘い悲鳴を上げる珠生を抱きしめながら、ずん、ずん、ずんと深く激しい抽送を繰り返し、耳元で何度も愛を囁いた。 「ぁ! ァん、ぁあっ……!! だめ、……イくっ……イっちゃうよ……っ……ぁ、ああっ……!!」  珠生は全身で舜平を受け止めながら、泣きそうな声でそう訴えた。舜平ははしたなく体液を滴らせている珠生の屹立を片手で扱き、さらに激しく、深く、珠生を突き上げる。 「あ! ぁん! ぁ、やぁっ……! イっちゃう……っ……イく、ぁぁ……!!」 「俺も……はぁっ……イく、イくっ……!」 「ンっ……んんんっ……!!」  汗ばむ珠生の背中を抱きしめながら、舜平は最奥で果てた。珠生の匂いとぬくもりに包み込まれながら、甘く痺れるような感覚に身を委ねる。 「……はぁっ……ぁ……はっ……おれっ……」 「……ん?」  舜平を飲み込んだまま、珠生はかすれた声で何か呟いた。ちょっと身を起こして珠生の横顔を見つめると、珠生は重たげにまつげを持ち上げながら、こう言った。 「俺……また、大きな声出してた……かも……」  涙目でそんなことを言う珠生が可愛くて可愛くて、舜平のペニスはすぐに力を取り戻す。  そして間髪入れずまた腰を振り、珠生をさんざん喘がせた。

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