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二十五、とろける肌

   一月二日、早朝。  舜平は伏見のマンションで、朝を迎えていた。  家族に珠生を迎え入れてもらった、大晦日の夜。  あの日は舜平もいつになく酒を飲んでしまったらしく、珍しく記憶が曖昧だった。珠生も宗円の酒は断りづらかったようで、気づけば机に突っ伏して寝息を立てている始末。荒ぶる前に眠ってしまったことにちょっと安堵しつつ、その日は居間の隣にある客間に布団を敷き、二人並んで眠ったのだった。  そして元日。  相田家が預かる『浄照寺』にて、毎年行う新年の御勤めに珠生も参加した。家族揃って宗円の経を聴き、無事に新年を迎えることができたことへ感謝するための、ささやかな法要である。  その場に珠生がいるということが、舜平にとってはとても幸せなことだった。こうして少しずつ少しずつ、珠生と本当の家族になっていけるのかもしれないと思うにつけ、前世では感じることのなかったあたたかさが、心に湧き上がってくる。  舜海であった頃は、遠くから眺めることしかできなかった、最愛の人との未来。それを現世でならば、この手に掴むことができるかもしれない。  健介には突き放されてしまったが、それは覚悟の上だった。どういう打ち明けかたをしたとしても、きっと健介を怒らせる結果になっていたような気がしていたからだ。まだまだ理解のないこの国で、男同士で番おうとすることがどれだけ普通ではないかということくらい、舜平だって理解している。それに、無垢な高校生であった珠生を誑かしていたという事実は、全くその通りなのだから。  しかし、たとえ二人が清い関係であったとしても、いつかは珠生を求めていただろう。五百年の時を超えて再会した最愛の魂を前にして、踏みとどまれるわけががない。  舜平が求め、珠生が応えるのならば、二人の行き着く先はここしかない。今度こそ、ふたりで共に生きていく。その未来を叶えるために、次はきちんと健介と向き合わねばならない。 「んー……」  珠生の寝顔を見つめながらそんなことを考えていると、もぞもぞと珠生が身じろぎをした。舜平にぴったりとくっつくように身を寄せていた珠生が、薄く目を開いた。 「……起きてたんだ。今、何時?」 「もう十時やで。お前、まだ二日酔いが抜けへんのちゃう?」 「そうかも……はぁ……だるい」  結局元日も真昼間から飲まされていた珠生は、どんよりとした重い顔をしている。だが、翳りがちだった珠生の目は、今はすっきりとした光を湛えていた。ベッドを出てキッチンに立ち、コップに水を注いで珠生に渡してやると、珠生はうまそうにそれをごくごく飲み干している。 「はぁ〜〜〜……美味しい」 「親父にあそこまで付き合うことないねんで? かなり酔うてたのに、よう暴れへんかったな」 「だって、せっかく認めてもらえたのに変な粗相はしたくないっていうか……」 「まぁ、それもそうか。けど、ほんま、無理せんでいいからな」 「うん」  ベッドに腰を下ろし、珠生の頭を撫でてやる。珠生は眠たげに目をこすりつつも、甘えるような目つきで舜平を見上げた。クリスマスからこっち、軽く触れ合うことはあっても、へこんでいる珠生を相手にセックスを押し付ける気分になれず、ずっと我慢を重ねていた。なのでついつい、いつになくリラックスした表情の珠生にムラっとしてしまう。 「あっ、えっ、どうしたんだよ、いきなり……っ」  何の前振りもなく珠生をベッドに押し倒し、履いていたスウェットパンツをを引き下げた。舜平が貸しているものだから、珠生のほっそりとした下肢にはサイズが大きすぎるため、たやすく素肌を露わにできてしまう。  艶かしい白い脚と、黒のボクサーパンツ、戸惑いがちな目つきで舜平を見上げる無防備な姿にそそられて、舜平はすぐさま珠生の下着をおろし、半ば勃ち上がったペニスにしゃぶりついた。 「っ、なんで……ぁっ、ぁあ、」 「……しぃひん?」 「待っ、ァっ、あんっ……やぁ、あ、」 「お前を抱きたい。……あかん?」 「ん、んっ……!」  くっぽりと根元まで飲み込みんだあと、ゆっくりと粘膜で愛撫しながら、唇から抜く。鈴口と舜平の唇には透明な糸が繋がって、珠生の興奮の匂いがかすかに香った。唾液に濡れた根元を扱きながら先端を口に含み、舌先でねっとりと舐め回してみると、珠生は「ひゃ、あっ……」といやらしい声をあげ身悶えた。 「ん……したい……俺も……っ……」 「……ほんま?」 「ん、うんっ……ぁ! でもまって、そんなはげしいの、ぁ、あっ……!!」  珠生の切なげな声に興奮を禁じ得ず、舜平はさらに激しい口淫で珠生を攻め立てた。じゅぷ、じゅぷといやらしい音を立てながら、滴る唾液で濡れた珠生の後孔を指で撫でてやれば、珠生はベッドの上で腰をよじらせ、しどけない喘ぎ声で舜平を煽った。 「ぁ、やだ、イっちゃう、からっ……待って、ぁ、あんっ」  射精することを拒むように舜平の肩を押す珠生だが、その腕にはまるで力が入っていない。つぷりと指を挿入し、同時にきつく雄芯を吸い上げると、珠生はびくん、びくっと全身を震わせて絶頂してしまった。 「ん、んんぅ……っ……!!」  喉の奥に放たれた熱い体液を、舜平はためらいもなく飲み干した。珠生の中に残っている精液をも全て吸い尽くし、白い肌を火照らせてくったりしている珠生の前で、舌なめずりをする。すると珠生はかああと頬を赤く染め、気恥ずかしげに目をそらした。 「そ、そういうの……しなくていいって言ってんのに」 「普段、珠生があんまり美味そうに飲むから、ついな。俺もやってみたくなんねん」 「お、俺は普通の人とちょっと違うからアレだけど……! 舜平さんにとっては、別に美味しいもんでもないだろ」 「ううん、そんなことないで。恥ずかしそうにしとるお前見ながら飲み干すん、なんかめっちゃ興奮する」 「うわ、へ、変態……!」 「ははっ、そうかもな」  珠生に変態と罵られることにも慣れているため、舜平は笑って受け流す。舜平はするりと上を脱ぎ、珠生のシャツも脱がせてしまう。カーテンの隙間から差し込む朝日の中、白い裸体を晒す珠生の姿は、夢のように美しい。舜平は恭しく珠生の肌に触れ、膝頭にキスをした。 「ん……」 「きれいやな、お前は……」 「ん、んぁ……」 「ほんまに、きれいや」  しなやかな脚を撫でながら、下腹にキスを落とす。窪んだへそや、引き締まった脇腹にもキスを降らせていると、珠生の口から熱を帯びたため息が漏れた。珠生の指も、舜平の肩や髪を愛おしげに撫でていて、その感覚が妙にくすぐったい。舌先を尖らせて珠生の胸の尖りを舐め転がすと、珠生はとうとう「あ……!」と、小さく悲鳴をあげた。 「んうっ……ァ、あっ……」  深い愛撫を与えるたび、珠生は息を弾ませながら甘い声をたてた。舌で、指で、素肌で珠生の反応を感じ取るたび、珠生が全身で舜平を求めていると感じることができる。首に絡みつく腕、腰に絡まる長い脚、腹のあたりに感じるのは、自分のものではないもうひとつの高ぶり。  つと顔を見つめてみれば、きらきらと涙で揺らめく胡桃色の瞳がある。珠生とこうして肌を合わせるようになって、もう七年あまりの年月が経とうとしているというのに、とろけんばかりに甘い表情を浮かべた珠生の色香に、今も変わらず狂わされる。赤い唇から漏れる乱れた吐息の下、珠生は何度も舜平の名を呼んで、細い腰をくねらせ先をねだった。 「挿れて……舜平さん、もう、欲しいよ……」 「まだ、きついやろ」 「いやだ、はやく欲しい……。舜、早く……っ」  自ら脚を開いて誘われてしまえば、もう逆らえるわけがない。舜平は荒々しく珠生の腰を引き寄せると、淫美にとろけた珠生のそこに切っ先をあてがった。そうしているだけで、中へ引き込まれそうになるほど、珠生の窄まりは舜平を求めている。思わずため息が漏れてしまうほど、淫らな眺めだった。 「あ……! あ、あっ……!!」 「は……はぁっ……」 「舜平さん……、あう、っ……んっ……!!」 「……はぁ……っ……めっちゃ、いい」 「ん、ぁ……ぁ、あ、もう、イっちゃう、ぁん、んっ……!!」  珠生の中へ根元まで埋めた瞬間、珠生は舜平にすがって達してしまった。びく、びくんっと震えながら舜平の肉棒を締めつける珠生の身体を、きつくきつく抱きしめる。 「はっ……はぁっ……ふ……っ」 「珠生……今日はえらい、感じがええな」 「だって、嬉しかった、から……舜平さんとのこと、認めてもらえて……ほっとして……」 「……そうやんな。俺もやで」 「嬉しかった、から……ぁ、あ……ん」  絶頂感が少し収まり始めた珠生の様子を見て、舜平はゆっくりと腰を使い始めた。突き立てるたびに珠生は甘い声を上げ、擦られるたびに内壁を震わせる。いつになく素直に快感を享受する珠生が、可愛くて可愛くて仕方がなかった。しっかりと抱きしめ合い、汗ばむ肌がとろけてしまうほどに気持ちのいいセックスに、ふたりはしばし言葉を忘れて集中していた。 「はぁ、あっ、あンっ、んっ、」 「俺を見ろ、珠生」 「っぅ……やだよ、だって、また、イっちゃう、からっ……」 「珠生がイくとこ、よう見せて。……ほら、目ぇ逸らしたらあかん」 「やだ、あっ、見ないでよばかっ……ぁ、あ、あ!」  珠生の細い顎を、やや強引に掴んで上を向かせる。ちょっと悔しげな表情を浮かべようとしているようだが、下から激しく抽送されるペニスのせいで、どうやっても表情がゆるんでとろけてしまうようだ。そんな珠生の表情をつぶさに見つめながら、舜平はさらに激しく珠生を穿つ。 「あ! あ、んやぁっ、イくっ、イくぅっ……!! ぁ、あうっ……んん!!」 「っ……」  ずんと深く最奥を突かれた瞬間、珠生の内壁がひときわ激しく絡みつく。ぎゅうっと固く目を閉じた瞬間、珠生の目尻から涙が溢れた。  まさに精を搾り取られるその感覚に、舜平も思わず射精させられていた。どく、どくっ……と中へ放たれる体液を逃すまいしているかのように、珠生の内壁はきゅうきゅうと舜平のそれを離そうとしなかった。  震えるまつげがゆっくりと持ち上がり、濡れた瞳が舜平を見上げている。重たげな瞬きをすると、珠生の目からはまた涙が流れ落ちた。それを唇で掬い、舌で味わう。涙は塩辛いはずなのに、不思議なことに、珠生の涙は甘く感じる。 「はぁ……っ……はっ……すごい、いっぱい……」 「え……?」 「っ……な、なんでもない……」  ゆっくりと腰を引き、ペニスを抜くと、とろりとした白濁が溢れ出す。珠生はまたかぁっと顔を赤くして、口元を拳で覆って顔を背けた。さっきまでよがり狂っていたくせに、ちょっと我を取り戻すとすぐに照れてしまう。そんなところも可愛くて、舜平はふふっと笑った。 「ほんっま、かわいいな、お前」 「う……うるさい」 「あかんわ……おさまらへん。もう一回したい」 「ぁっ」  溢れ出した精液を拭ってやり、珠生の腰を引いて身体を反転させる。四つん這いにさせられた珠生は、猫のように腰をしならせ、横顔で舜平をじっと見上げた。珠生の目つきにも、まだまだ焦げつくような高ぶりを見て取った舜平は、珠生の内腿にベニスを擦りよせながら、首筋にかぷりと噛み付いた。 「……アっ……」 「珠生は、どう? まだしたいか?」 「ん、ァっ……ぁ……ん」 「どうする? ほら……俺のこれ、まだまだこんなやねん」 「ぁ……ん、硬い」  耳元でそう囁きながら、珠生の小ぶりな尻に腰をぶつけてみると、珠生はふるりと背中を震わせて「ん、ん」と良い声を漏らした。返事をせかすように、しなやかな稜線を描く背筋に舌を這わせると、珠生はたまりかねたように腰を揺らして、舜平の愛撫をねだった。 「も……もう一回、する。バックで、したい……」 「……ほな、このまま挿れるで」 「うん……、ぁっ! ァっ、あん、ふぁっ」  許しを得るや、舜平はすぐに珠生を後ろから貫いた。ぱん、ぱん、と腰をぶつけるたびに弾ける音が、いやらしく部屋の中に響いている。興奮のあまり激しく脈打ち、雄々しく反り返った舜平の怒張を健気に受け止める、珠生の小さな尻。掌にすっぽりと収まってしまう双丘を両手で包み込みながら、舜平は本能のままに珠生を味わい、あふれんばかりの快楽を与えるのだった。

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