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二十一、酔っ払い

「うぅ……気持ち悪い」 「アホ、いくらなんでも飲み過ぎや」  拓の部屋で、舜平は起き上がることもままならないほどの二日酔いに苛まれていた。  あの後、家飲みに合流した舜平は、ただひたすらに浴びるように酒を煽った。そこには拓を含めて後二人、同じゼミの学生が屯していたが、そんな舜平の荒れっぷりを冷やかした。  四人で梨香子について話し合い、各々の彼女や恋愛観について喋って盛り上がっていた。夜が更けていくにつれて、猥談を繰り広げていく四人であったが、舜平はその頃すでに酔い潰れていた。  友人二人が自転車で帰宅していった後、拓は呆れながら舜平に毛布を貸してやり、自分はシャワーを浴びて寝支度を整えていた。さっぱりして部屋に帰ってくると、舜平はやおらムクリと起き上がり、ずーんと据わった眼で拓を見上げたのである。 「なんや? 起きてたんか。吐くならトイレに行ってくれよ」 「……お前、誰や」 「……はぁ? 人様の家で潰れるまで飲んでおいて、何を言ってんねん」  拓はげんなりした顔で、頭を拭きながらスツールに座った。舜平は部屋を見回し、自分の服を不思議そうにつまんだりしている。 「……ここ、どこ?」 「だから、俺んちや」 「……俺、頭がおかしなったんかな」 「ああ、ここ数日、お前の頭はおかしい」 「そっか。……はよ帰らな……」 「今からか? バスも電車も動いてへんぞ」 「ばす?何やそれ、馬、貸してくれへんか」 「……おい、一体どうした。舜平……」  様子がおかしい。段々気味悪くなってきた拓は、訝しげな顔を浮かべて舜平を見ていた。舜平はそんな拓をきょとんとした顔で見上げると、「舜平? 誰や、それ。俺は舜海って名や」と、言った。 「え……?」  拓は本気で気味が悪くなってきた。何で皆が帰ってから怪奇現象が起こるのか、こんな事態、俺では捌ききれへんぞ……と内心頭を抱えながら、どうしようかと思いあぐねていると、舜平はまた、ばったりと床に倒れた。  そして、そのまま朝になったのである。    拓は、その時のことを舜平に話すかどうか迷っていた。聞いて嬉しいことでもないだろうし、ネタにするには笑えない。  じっと仏頂面で舜平を見ていると、拓に責められていると思ったのか、寝起きの舜平はぺこりと頭を下げる。 「すまん……はぁ。気持ち悪……」 「……ああ。……あのさ」  拓は、意を決して聞いてみることにした。 「お前、ひょっとして、霊感とかあるわけ?」 「……え?」 「いやちょっと、そう思ってん」 「……俺なんかした?」 「してはないねんけど……。お前潰れてから、いっぺん起きたやろ?」 「覚えてへんなぁ……」 「そん時お前、自分のこと、俺の名は舜海や、って言うたんやけど……」  慎重に拓はそう言って、舜平の様子をうかがっていた。舜平の顔が、みるみる強張っていくのが、はっきりと見て取れた。 「俺が……そんなこと言ったんか」 「ああ、そやねん」  舜平は大きくため息をついて、うつむく。  やっぱり、言わんほうが良かったんやろうか……と拓は不安になった。 「拓、俺……。霊感あんねん。小さい頃から」 「そうか、やっぱり。じゃあ、何かに乗り移られてたってこと?」 「かも、な。はははは」  舜平は乾いた笑い声を立てたが、心のなかは穏やかではなかった。 ――おいおいおいおい、今度はなんや。舜海って、あの狐目が言ってた名前やろ。 「拓、これ……あんまり人に言わんといてくれるか。変人扱いされんの、いややからさ」 「おう、分かってる。さすがの俺も、ちょっと怖かったわ」  苦笑する拓に、舜平は申し訳ない思いでいっぱいである。 「ごめんな、怖い思いさして」 「ええってええって、お前も大変やな」  舜平は、この大らかな友人の存在に、こんなに感謝の念を感じたことはなかった。さらりと受け流してくれる拓に、もう一度頭を下げる。 「すまんな」 「ええって、気持ち悪いわ。改まられると」 「はは、せやな。ついでに、シャワー借りていい?」 「おお、ええよ。両親ももう出かけとるから」 「どこ行かはったん?」 「デートや。梅小路公園に花見に行った」 「……へぇ、仲ええな」 「まあな。ええこっちゃ」  拓はペットボトルのお茶を舜平に投げ渡し、和やかに笑った。

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