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14 クリスマスプレゼント
* 男女の絡みが出て来ます。苦手な方はご注意ください。
「なんや、あれ……」
珠生と舜平は目を凝らして、じっとその光の柱を見た。珠生はふと何かに気づいたように、目を見開く。
「あれ……全部駒霊だ! 何か……ものすごく嫌な感じがする」
「駒霊? ああ、妖を呼ぶっていう……」
「俺、先に行きます。舜平さんは先輩に連絡を」
「分かった。すぐ行くからな!」
舜平の言葉を聞き終わる間もなく、珠生はその場から姿を消した。まるで煙がかき消えるように。
それは以前の珠生の動きよりもずっと疾く、まるで千珠の動きそのものに見えた。
——俺がいない間に、珠生また力を飛躍させている……。
舜平は複雑な思いを振り切るように、すぐにポケットから携帯を取り出すと、彰に連絡を取りながら走りだした。
+ +
携帯電話のヴァイブレーションの音が響く。
彰は手を伸ばして、ベッドサイドに置いていた携帯を手に取ると、着信の相手を見て少し目を見開いた。
「……舜平?」
『おい、お前らの学校の方見えるか、すごいもんが見えるで』
「御池の方?」
彰はもぞもぞと裸のままベッドから出ると、大きな窓のカーテンを開いた。そして目を見開く。
「なんだ、あれは」
『駒霊の集合体やって、珠生は言ってた。あいつは先に現場に向かってるから、お前も来てくれ』
「分かった、すぐに行く。……って君、いつ日本に?」
『そんなことは後でええやろ! はよう来いよ!』
彰の呑気な質問に、舜平の声が大きくなる。彰は耳から携帯電話を少し離して、うるさ気な顔をしてから電話を切った。
「……何?」
背後のベッドから女の声がして、暗がりで誰かが起き上がるのが見える。彰はそちらを振り返り、窓のほうを指さした。
「見て、駒霊の集合体だそうだよ。僕、すぐ行かないと」
「……駒霊ですって!? ってことは……」
「ああ、あそこの鬼道が開いている。すぐに封印する」
「私も行くわ!」
ベッドサイドの明かりがついて、裸の葉山彩音が起き上がった。そして、窓際に全裸で立っている彰を見ると、「ちょっと! なにか着てよ!」と喚いた。
「今更何言ってるんです。裸なのはお互い様じゃないですか」
彰はにやりと笑って、ベッドの下に落ちていた自分の服を身に着け始めた。ズボンを履いて、ベルトを締めながら、服を探している葉山を見た。
「葉山さんはシャワーでも浴びたら? 同時に行くのもどうかと思うし」
「そんな悠長な……」
「僕がいるんだから、大丈夫だよ」
毛布で胸を隠している葉山のそばに座ると、彰は葉山にキスをした。葉山はそんな彰の裸の胸を押しやる。
「ちょっと、もうお終いよ」
「もう一回したかったのになぁ」
彰が笑ってそう言うと、葉山は赤面した。余裕たっぷりの笑みを見て、少し腹を立てたような表情を浮かべる。
「……終わったら続きをしようか」
抱き寄せた葉山の耳元で、彰は囁いた。
「ダメよ、お子様は外泊禁止でしょ」
「そのお子様に、ずいぶんと喘がされたみたいだけど?」
「お黙りなさい。さっさと行って!」
「はいはい。じゃあね、先に行く」
彰は微笑むと、長袖のTシャツに上に黒いコートを引っ掛けると、さっさと部屋を出ていった。
葉山はため息をついて、裸のまま部屋をうろついて服をかき集め、バスルームへ向かった。
+
二時間前のグランヴィアホテル。
いつも藤原とともに宿泊しているスイートルームだった。当分藤原は東京勤務のため、ずっと葉山がここを占領しているのだ。
今日はクリスマスイブだが、葉山はずっと部屋にこもって仕事をしていた。京都駅の大きなツリーもきらびやかなクリスマスリースも、ほんの直ぐ目の前にあるというのにまるで見る気がしなかった。
ここ数カ月の京都での出来事をまとめ、データを添付し考察を述べた上で、明日までに藤原に提出しなければならない。パソコンに向かって、ルームサービスで頼んだワインと簡単な食事を取りながら、葉山ひたすらに仕事をしていた。
そんな時、ドアをノックする音が部屋に響いた。
葉山は不思議に思ったが、ドアに歩み寄って覗き穴を覗く。
「え……?」
そこには、斎木彰が立っていた。黒いチェスターコートのポケットに手を突っ込み、少しうつむきがちにそこにいた。
「彰くん……何してるの?」
「どうも。業平様に、僕の見解もデータに入れておけと言われたので、来ました」
「ああ、ありがとう……。メールでも良かったのに」
「メールじゃ葉山さんに会えないでしょ」
そう言ってにっこり笑った彰を、葉山は少しだけ可愛いと思った。お世辞とは分かっていても、イブの夜に優しい言葉をかけてくれる誰かがいてくれることが、嬉しかったのだ。
「……調子いいわね。ま、どうぞ」
「どうも」
そこからのことは、あっという間でよく覚えていなかった。
ドアが閉まると同時に、彰は葉山の身体を抱きすくめ、以前よりも激しく口づけてきたのだ。
葉山が抵抗しても彰はそれをやめず、巧みな動きで葉山をベッドへと押し倒した。
高校生のくせに、と思いながらも、彰の唇や手つきの心地よさに、忘れていた女としての感覚が徐々に蘇る。
彰は葉山にのしかかって、ブラウスのボタンをひとつひとつ外した。その時の自分を見つめる彰の目は真剣で、そして妖艶だった。
一体どこで覚えてきたのか、彰はことの最中も巧みだった。
長く白い指が自分の体の上を滑るたび、葉山は声を立てていた。そして、いつになく息を弾ませている彰のことが、また可愛らしく思えた。
見た目以上に逞しく引き締まった身体も、とても美しいと思った。葉山がこれまでに交際してきた男たちよりも、彰ははるかに魅力的だ。
事が終わった後、彰は背中から葉山を抱きしめて、しばらく離してくれなかった。
そして、後ろからぽつりと、「メリークリスマス」と言った。
葉山は笑った。
「あなたがプレゼントだったってこと?」
「いや、葉山さんが僕へのプレゼントだ」
口八丁な彰のことだ、その言葉が本心から出てくるものではないのだと頭の中では理解しているつもりだった。しかし、純粋に嬉しかった。
「……彰くん、そういうセリフはどこで勉強してきたのよ」
「思ったから、言っただけだよ」
「……あ、そう」
「ねぇ、なにか感じる……?」
彰はいつものように、そう尋ねてきた。葉山の首筋や肩に顔を寄せる彰のまつ毛や前髪の感触がくすぐったい。
「……そうね。あたたかくて、……気持ちいいわね」
「そう……」
「あなたは何を感じたの?」
「……僕は、なんだろうな……」
珍しく口ごもる彰は、言葉を選んでいるようだった。
「僕を受け入れてくれたことが、嬉しい……と言ったらいいのかな。よく分からない……けど」
「あなたでも、言葉に詰まることがあるのね」
「うん……感じたことのない気持ちだから」
「そう……良かったわね」
「うん……」
重たい声で、少し眠たげな彰の方に向き直ると、葉山は彰を間近に見つめた。薄笑いを浮かべていない彰の顔が珍しい。
その瞳はかすかに潤んで揺らいでいて、彰の揺れ動く心の内を映し出しているかのように見えた。
「今日くらいは、甘えてあげてもいいわよ」
「はは、クリスマスだから? 神道を重んじる陰陽師のくせに?」と、彰は笑った。
「日本人は、宗教に節操が無いのよ」
「フレキシブルでいいね」
彰はまた葉山にキスをした。裸で触れ合う肌と肌が、心地いい。
葉山は彰の上に馬乗りになると、自分から唇を重ねる。
自分の動きに素直に反応し、眉を寄せて息を漏らす彰を、また少し、可愛いと思った。
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