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4、したい、欲しい

 土曜の夜。  舜平は結局、珠生のマンションを訪れていた。しかし、エントランスに入ったものの、インターホンは押せないでいるのである。  珠生の顔が見たい。それだけ、それだけのつもりでここへ来た。なのに、いざインターホンを前にすると、緊張してボタンが押せないのである。  さぞかし挙動不審に見えるだろうということは理解していたが、どうしても指が出ない。舜平はうろうろと同じ場所をぐるりと回り、ため息をついた。 「何やってんですか」  冷ややかな声に、舜平は飛び上がった。ついに住人に見咎められたかと、謝らねばとそちらを向く。  しかしそこに立っているのは当の珠生だった。制服姿で、胡散臭そうに舜平を見上げている。インターホンを押したところで、誰も出るはずがなかったのである。 「怪しいですよ、思いっきり」 「……すまん」 「まぁ……どうぞ。……あの、何か用だった?」  珠生は鍵を開けると、先に立ってエントランスの中へと進んでいった。舜平は珠生を呼び止めかけたが、すたすたと階段を登って行ってしまう珠生の後を、慌てて追いかけていく。  久しぶりに入った珠生の家は、以前と変わらず綺麗に片付いていて、居心地がいい。珠生はいつもの様にキッチンに立って、コーヒーを入れ始めた。 「学校やったんや」 「うん、部活があったから」 「そっか……」  ダイニングテーブルの側に立ったまま、舜平は珠生を見つめた。ふと目を上げた珠生の透明な瞳と視線が絡み、ついついどきりとしてしまう。珠生はぱちぱちと目を瞬いて頬を染め、また直ぐに目を落としてコーヒーメーカーを見下ろした。    気まずい沈黙が部屋の中を支配する。  やがて珠生はマグカップを二つ持ち、ソファの前に置かれたセンターテーブルの上にそれらを置いた。 「ま、まぁ……ゆっくりしてて。着替えてくるよ」 と、珠生は自室へと消えて行く。思えば、珠生が制服の夏服姿でいるところを初めて見た。白い半袖のシャツから覗く締まった腕を見ただけで、ドキドキと鼓動が速まる自分に舜平は呆れた。  舜平はいつもの場所に座り込むと、珠生の入れたコーヒーを飲んだ。思えばここでコーヒーを飲むのも約半年ぶりである。 「……美味い」  思わずそう呟いた。部屋から出てきてそれを聞いていた珠生が苦笑している。 「しみじみしちゃって」 「いや、久しぶりやしさ」 「いつもと変わんないよ。アメリカはそんなにコーヒー美味しくなかった?」 「んーまあな。あんまり好みの味じゃなかったな」  珠生は部屋着の黒いジャージとだぼっとしたTシャツになり、舜平の隣で脚を抱え、丸くなって座った。そのいつもと変わらない珠生の行動を見ていると、少しほっとする。 「そういえば、先生は?」 「明日の晩まで東京だよ」 「あ、そっか。相変わらず忙しいねんなぁ。ってことは月曜にはつかまるかな……」 「なんか用事?」 「卒論のことでな。それに、進路のことも」 「あ、そっか……就活か。どのへんで受けるの?」 「このご時世やからなぁ、場所は選んでられへんよ。進学とも迷ってるし」 「……そうなんだ」  目に見えて淋しげな顔をする珠生の表情に、舜平はまた目眩を感じた。素直な時の珠生は、どうしてこうも可愛いのだろうか。舜平は慌てて付け加えた。 「まぁ、出来れば近畿圏内でとは思ってるけど……」 「そっか」  少し安心したのか、珠生は笑ってコーヒーを呑んだ。抱えていた脚をあぐらに組み替えると、珠生は空になったマグカップをテーブルに置く。  ――可愛いなぁ……。  久方ぶりの二人の時間にほっこりしながらコーヒーを飲んでいると、珠生が不意にこんなことを訊ねてきた。 「……舜平さん、美来さんとどうなったの?」 「……えっ? …………えええっ!? な、な、な、何が!?」 「もう告白された?」 「えっ!? ……あ、うん、昨日……」 「付き合うの?」 「いや!! いやいやいやいやいやそんなわけないやん!! ってか、なんでそんなん知ってんねん! 急に佐為みたいになりよって」 「えと……実はこの間悠さんに聞いたんだ。美来さんが、舜平さんに惚れてるって」 「北崎め、なんでわざわざ珠生に……」 「悠さんはさ、俺が舜平さんを美来さんに取られてもいいのかって、気にしてるんだよ」 「取られる? 安西に?」 「うん……」 「そんなことになるわけないやん! だって俺は、お前を……」 「……」 「俺は、お前のこと」 「……わ」  舜平に腕を引かれ、ふわりと包み込まれる身体。舜平の体温に満たされた途端、多忙な舜平に遠慮するあまり強張っていた気持ちが、するりと緩んでいくのを感じた。  指の背で頬を撫でられ、間近で舜平に見つめられる。微かに潤んだ黒い瞳は、言葉よりもはるかに雄弁に、珠生への気持ちを物語っている。珠生は舜平の肩に手を触れて、じっと舜平の力強い眼差しを受け止めた。  ――キスしたい……。  もの欲しくなって小首を傾げてみると、舜平はふわりと口元を緩めて微笑んだ。舜平の凛々しい顔が優しく綻ぶのを見て、珠生の鼓動はどきどきと早鐘を打ち始める。 「珠生……今、チューしたいって思ったやろ」 「っ……うん……」 「わかりやすいやつ」  舜平の指が珠生の顎をすくい上げ、腰を抱く腕の力が強くなる。珠生は素直に舜平の動きに身を委ね、そっと目を閉じた。  やがて触れる、舜平の唇の感触。感じ慣れた暖かな体温と、みずみずしい弾力をもった、舜平の唇だ。  ――気持ちいい……。  多少遠慮がちな、舜平のキス。柔らかく唇を啄ばまれ、下唇を食まれているうち、珠生の身体にじわじわと熱がこもりはじめた。触れ合わせているうちに湿り気を帯びた互いの唇から、徐々に淫らな水音が漏れ始める頃には、珠生は舜平の首に両腕を絡ませて、積極的に舜平のキスを求めるようになっていた。 「っ……舜平、さん……ん」 「舌……挿れていいか……?」 「へ……ぁ、うん……ん」  珠生が口を開くと、舜平の熱い舌が歯列を割って侵入してくる。ゆったり、ねっとりと口内を舐られて、珠生は舜平の舌技のあまりの淫らさにうっとりと浸りながら、その先をせがむ様に舜平の首に両腕を絡めていた。 「ん、んっ……ぁ、ん……」 「珠生……声、エロ」 「んっ……だって……っ」  舜平の手が、シャツの中へと侵入してくる。ゆるやかに肌を滑る舜平の手に、あっさりと翻弄される。  腰を撫でられ、そのままジャージの中に差し込まれる舜平の手のひら。大きな手で尻を揉みしだかれていたかと思うと、ぐっとさらに強く抱き寄せられて体が密着する。  すでに高ぶった珠生のペニスを感じたのか、舜平は一旦キスをやめて珠生を見つめた。気恥ずかしさで震えそうになるけれど、今更隠し立てなどできないほどに、珠生の身体は熱く熱く高ぶっている。 「……する?」 「えっ……するって……?」 「お前を抱きたい」 「……へ……っ」  直接的にそう言われると、珠生はついつい恥ずかしくなってたじろいでしまうが、舜平の瞳にも、後戻りできないほどの猛りが見て取れた。そんな舜平の雄々しさにずくんと体の奥が反応し、珠生は操られる様にこくこくと、何度もなんども頷いていた。 「……ほんまかわいいな、お前」 「ん、はぁ……ッ」  激しく貪るようなキスを浴び、そのままソファに押し倒される。あっという間にジャージと下を脱がされ、Tシャツと制服の黒いソックスだけという格好にされてしまい、珠生は羞恥のあまり顔を赤くした。 「ん、電気、消そうよ……っ」 「何で? 全部見たいねんけど」 「や、やだよっ……!! 明るすぎ……」 「あかん。隠すな」  腰をよじって完全に勃起したペニスを隠そうとするも、舜平は強引に珠生の膝をつかんで脚を開かせてくる。そして片脚をソファの背もたれに引っ掛けさせ、もう片方の脚を自らの肩に担いで、逃げ場を奪う。 「……い、いやだよ、こんな……!」 「細い腰やな。脚も、こんなに……」 「んんッ……」 「何であんな力が出るんやろな。……こんな、すぐに壊れそうな綺麗な身体やのに」 「あ、あン……っ、んっ……!」  ペニスを扱かれながら、膝裏を舐められる。ぞわぞわだと背筋を駆け抜けるくすぐったさと、もっとも過敏なところを緩く可愛がられる快感がないまぜになり、珠生は溢れそうになる喘ぎ声を必死でこらえた。 「あ、あ……ン、はぁ……!」 「何で声、我慢すんの?」 「だっ、て……」 「もっと聴きたいねん、お前の声。……めっちゃエロくてかわいい声、聴きたい」 「あっ……!! ん、ん……」  舜平を見上げると、赤い舌を覗かせて膝から太ももを舐め上げる妖艶な姿が目に入った。そんな舜平の姿に魅入っていると、舜平は薄く目を開いて珠生を見下ろし、唇の端を吊り上げて妖しく微笑んだ。  その笑みと、猛々しさを含んだ舜平の眼差しを目の当たりにした瞬間、弾けるような興奮が全身を駆け抜ける。舜平の手のひらに包み込まれている性器が、弾けそうに熱くなった。 「……ッ、いくっ……しゅんぺいさ……ん……! いっちゃう……!」 「もう? ……エロい身体してんな、お前……まだ何にもしてへんのに」 「ん、ンンッ……! はぁっ……ぁ、」  あっという間に達してしまった気恥ずかしさで、顔から火が出そうだった。でも、不思議なことに身体の熱は冷める気配を見せず、もっと舜平に攻められたいと騒ぎ立てる。  そんな珠生の欲望を知ってか知らずか、舜平は珠生の精液でぬるついた指を、後孔に挿し入れて来た。アナルの周りをもいやらしく愛撫する舜平の指の動きに、珠生はあっさり翻弄されてしまう。 「あ、あんっ、ん、や」 「気持ちええんか。腰、めっちゃ動いてる」 「あ、あっ……きもち、いぃ……ん、ン……ッ」 「ずいぶん素直になったもんやな。……お前も、身体も」  舜平がジッパーを下げる音に、ぞくぞくさせられる。早く欲しくて、めちゃくちゃに掻き乱して欲しくて、珠生の本能が激しく疼く。 「ゴムはいやだ、ナマで、して……」 「え、でも」 「中に欲しい……ねぇ、出して、俺の中に、いっぱい」 「……お前なぁ」  取り出しかけていたコンドームを嫌がると、珠生は手を伸ばして舜平のそそり立つものに指を伸ばした。 「これ、挿れて……。早く欲しいんだ、ねぇ、舜平さん……」  珠生にねだられ、舜平が平気でいられるわけがない。舜平はシャツを脱ぎ捨て、珠生の上に覆い被さると、切っ先で珠生のそこを軽く撫で回したあと、一気に珠生の身体を貫いた。 「あッ……!! ん、はぁっ……っ」 「は……きつ……」 「あ、ン……すごい……っ、しゅんぺい、さ……っ」 「……ん……ッ」 「気持ちいぃ……ぁ、はぁっ……きもちいぃよぉ……っ」 「どうしたんや、お前……っ、はっ……」  逞しい肉を受け入れて、淫らに腰を振る珠生の色香に、舜平はめまいを覚えそうだった。うっとりと目を細めて、陶然と舜平を見上げる珠生の目つきは、出会った頃からは想像もつかないほどにいやらしく、誘われる。  腰を振りながら珠生の胸の飾りを捏ねてやると、珠生はより一層気持ちよさそうな声を上げた。上下する薄い胸にほんのりと朱色がさし、下腹で揺さぶられる珠生の先端からは、とろとろと透明なよだれが溢れ出している。 「あ、あ、あっ、ん、ぁん」 「はぁっ……めっちゃ、いぃ、ん……はッ……」  痺れるほどに淫らな眺めだった。久しぶりなのだから、もっと優しく甘い時間にしたかったのに、そんな余裕は一切もてなかった。舜平はただただ獣のように腰を振って珠生の最奥を激しく穿ち、快感のあまり高らかに啼く珠生の声と美貌に溺れた。 「舜平、さんっ……俺、また、いきそ……、キスして……ぁ、ぁんっ……!」 「ん……ええよ、こっち来い」 「舜……っ、あ、あっ……はぁっ……!」  珠生を引き起こし、深い深い口づけをかわす。座位になると更に深まる二人の繋がりから、ぐちゅ、くぷ、と性的な水音が漏れた。 「舜、舜……っ、イク……っ、イク、あ、あ……ん!!」 「っ……ん!」  珠生の絶頂とともに、激しくペニスを締め付けられる。搾り取られるかのように、気付けば射精させられていた。舜平は珠生の汗ばむ身体を抱きしめて、絶頂の余韻に浸っていた。 「あ……はぁっ……はあっ……」 「舜平さん……もう一回、したい……」  珠生は頬を紅潮させ、息を弾ませながら、舜平にそうねだってきた。 「……マジで? お前からそんなん言うとか、めっちゃ珍しいな」 「したい……足りないもん。もっと欲しい」 「……まったく、お前は」  舜平は珠生の頭を撫で、ちゅっと軽く唇にキスした。そして一旦ペニスを抜き、珠生を抱きかかえて立ち上がる。 「一回、シャワーしてからな。今日は容赦せぇへんで」 「……いつも、容赦なんてしてくれないくせに」 「そうか?」 「そうだよ」 「風呂場でも、する?」 「……うーん」 「したいんや」 「うーん……」 「ははっ、ほんまかわいいなお前」  舜平に抱き抱えられながら、珠生はどことなく悔しげに、そしてはにかんだように笑った。そんな珠生を見て、舜平は愛おしげに微笑んだ。

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