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《セイレーンについての手記》

 ◯◯月◯◯日  雪山に住む〝怪物〟について。  調査の上、分かったことを記しておく。  ××月××日  肌が白く、陽に弱い。  争いを好まぬ平和主義である。  外見は人間と変わらず、言語も通じる。  非常に聡明で、人間の文字や絵を理解している。  また、彼女らの歌については、独自に創られた造語なのだというデータを入手した。  その言葉のイントネーションや、歌の旋律には、人間の脳に何らかの影響を及ぼす不思議な力がある。これは意図的なものではなく、種族が違う故の、脳波の違和からくるものらしい。  詳しくは、化学分析が必要だろう。  △△月△△日  症状に関する情報だ。  大抵の場合は、意識を失う。極寒の雪山で一度でも失神すれば、次ぐのは死のみであろう。  遺体は厚い雪の下で、訪れぬ春を、未来永劫待ち続けるのだ。  つまり、セイレーンが人間を狂わせるのではなく、人間がセイレーンに狂うのだと。  **月**日  不思議な感情が、日に日に私を支配していく。  彼女は、美しい。  □□月□□日  何故、私が怪物を庇うような真似をするのか?  それはきっと、歌を聞いた私の脳に、異常が現れているからだろう。  あの時の私には、想像もつかなかった。  あまつさえ、彼女を愛し──  その腹に我が子を成してしまうなどとは。

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