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第8話 side光
「あいちゃん、どこまでいくんだよ」
俺の手を引いてズンズン歩くそいつに声をかける。もうすぐ予鈴がなる時間、本鈴がなるにはまだ時間はあるけれどさすがに教室から離れすぎたら遅刻だなあ、なんて呑気に考えていたときだった
「ひっ、かりちゃん、は!」
「え なに」
急に立ち止まった愛翔にぶつかりそうになったけれどギリギリそうはならなかった。自分よりも背の高い相手を見上げると、その顔に似合わないようなまるで子供が拗ねてしまったときのような顔をしていた。あー、なるほどな 愛翔が何に対して拗ねているのかがわかった。「はー……あのさ」と長めの溜め息をついてから相手を見直す。
「あいちゃんさ、あからさますぎない?」
「だって光!指田くんと、仲、良いから!」
そりゃあ中高同じだったら仲良くもなるわ、そんな一般論は通じないだろうと思うのでわざわざ言わないけれど。普段は俺のことを“ひかりちゃん”と呼んでくるけれど焦ってるときだったりは“光” と呼ぶのが愛翔の癖だ。何に焦ってるのか、俺は彼氏いるっていうのに、
「てか、仲良いからってはじめに相談してきたのあいちゃんだろ」
「そ…だけど、もしかして二人って付き合ってんのかなとか思うじゃん……」
「いやないよ」
いいやつだけど好みと違うし、と付け加えたらパアッと表情が明るくなった。
「俺はもちろん指田のことが大事だけど、あいちゃんも大事な友達だからさ、前にも言ったけどまた言っとくな…あいつ、ノンケだよ。」
「うっ……それは…まあ俺のテクニックで……」
「いやバカじゃん、ノンケな上にくっそ鈍感だからな」
テクニックとか絶対ないだろ、と思う。俺と指田のスキンシップですごい嫉妬(?)するくらいには余裕がないのだから。
「ま、上手くいったら先輩として教えてあげる」
「え、何を…」
ふふふ、と笑いながら右手の人差し指をピンと立ててそれを口元に当てて見せる。
ちょいちょい、と手招きして近づいてきた愛翔の耳元で「男同士のセックスの仕方」と囁いてやると湯気が出るんじゃないかと思うくらいに真っ赤になった。
もう高校二年生になったのになんてピュアなんだ、と思う。
相手が指田だから、上手くいく保証はないけれど
少なくとも俺と彼氏のことを話したときも嫌悪感を見せなかったから、愛翔の気持ちを拒絶することはないだろう、と思いたい。
他人のことなら大丈夫でも、自分のことになると別だというひとなんてザラにいる。
「俺と指田はそういうんじゃないから、そっちのクラス行った時にすっごい見てくんのもうやめてくれな」
「気づいてた?!うっそ…」
心底ビックリした、という顔をしているそいつを置いて先ほど引きずられてきた廊下を引き返す。予鈴がなった。やっぱりこれ、遅刻かな。
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