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Ⅱ
「えーと……アデルくん?とりあえず履歴書とかあったら見せて」
「は?僕はアルバイトの面接に来たんじゃないんですけど!」
「ああ……うん、そうだねその通りだね。……ていうか俺、弟子は取らない主義なんだけど」
「どうしてですか?」
「人に教えるのがめんどいから」
「そんな理由では納得できません!」
「ですよねー」
(さて、今回はどんな理由を付けて帰って貰おうかなぁ……)
弟子入り志願者がノーマの家を訪ねてくるのは、これが初めてではない。
これまでも老若男女実に様々な人々が弟子にしてくれとやってきたが、ノーマは一度も受け入れたことはなかった。理由は面倒臭いからである。
大体ノーマは自己流で魔法の修行をしていたため、人に魔力の扱い方をどう教えて良いのかよく分からないのだ。
「えーと……他の魔法使いのところを紹介しようか?」
「お前にそんなコネクション無ぇだろ」
合いの手よろしく突っ込むのは、勿論使い魔のポチである。流暢に喋る犬を見て、アデルは目を丸くして言った。
「犬が喋った!!」
「ああ、俺はこの野郎の使い魔だ」
「かっこいい……名前は何ていうの?」
アデルは喋る黒い大型犬に一瞬驚いたようだが、犬好きのようでナデナデと慣れた手つきでポチの頭や背を撫で始めた。
「……ポチだ……」
「は?ポチ?うそ、ダッサ!飼い主がそう名付けたの!?こんなかっこいい犬がポチだなんて、ある意味動物虐待だよ!!」
「もっと言ってやってくれ」
「ああ、可哀想にポチ……僕の使い魔になってたらアレクサンダーとかダミアンとかかっこいい名前を付けてあげたのに……」
「アレクサンダーもいいな!」
「あの、話続けていい?それと君たちは全国のポチと飼い主に謝って?……えーと、俺が見たところ君からは全く魔力を感じないんだけど……なんで魔法使いになりたいの?」
魔力がないということは、どれだけ魔法使いになりたくてもなれないのだが――この少年はそんな世界の理 を知らないのだろうか。
残酷な事実を告げる前に、ノーマは何故彼が魔法使いになりたいのかを聞くことにした。
何か自分に協力できることがあるならしてやりたい、と思ったからだ。
ヘタレには違いないが、こう見えてノーマにはボランティア精神があった。
「……僕の両親を殺した奴らに、復讐してやりたくて……」
(成程、犯人探しの手掛かりを掴むために、魔法の力が必要なのか)
「そのあとは、世界征服をするんです」
「うっわ、きみ一番魔法とか教えたらダメな奴じゃん!厨二病患者は帰れ!」
「僕は絶対に帰りませんよ!何がなんでも貴方の弟子になりますから!」
「つーか君は魔力自体が無い普通の人間だから、なりたくても魔法使いにはなれないの!そこまず理解して!?」
「……ハッ、そんなの……」
「ん?」
「貴方の魔法で僕を魔法使いにしてくれたらいいじゃないですか!!!」
「ええええそう来る!?魔法ってそこまで万能じゃないよ!?性転換とかそういうレベルじゃないよ!?」
「この世界で魔法が万能じゃないなら、いったい何を万能というんですか!魔法とはチートであるべきでしょうが!国一つくらい簡単に滅ぼせるという貴方なら、僕を魔法使いにするくらい朝飯前でしょう!?」
「死人生き返らせる並に無理だわ!!」
「ええっ、それも無理なんですか!?……貴方、そんな体たらくでこの世で最強の大魔法使い自称してるんですか!?詐欺もいいところだ!!」
「ううっ……」
初対面の相手(しかも年下)にまさかここまで言われるとは。元々少ないノーマのライフはゼロになりかけていた。
「――とにかく、貴方が何と言おうと僕は貴方の弟子になります、これは決定事項です」
「なんで君が決定すんのぉ!?」
「大の男がガタガタ言わないでください。勿論タダでとは言いませんよ。家事全般は僕が引き受けますし――そうですね、弟子兼嫁ができたとでも思ってください」
「えっ、……お嫁さん!?」
「はい」
およめさん、という言葉にノーマは揺れた。
何せ29歳独身、結婚適齢期なのに軽い引きこもりのため女性と知り合う機会もない。
このまま孤独で生きていくのかな……と常々思っては凹んでいたのだ。
しかし。
「きみ、男じゃーん!!」
「そんなの些細な問題ですね。神に愛されし美貌と謳われた僕ほど美しければ、男だとか女だとかなんてもはや関係ありません」
「自分で言うの!?」
「はい。それが何か?」
め、メンタル強ぇえ……。
「逆にお前が弟子入りした方がいいんじゃね?主にメンタル面で」
「俺もそう思うけど、お前が言うな」
主にノーマのメンタルを普段から抉ったり削ったりしているのはこの使い魔である。
「それはまあ置いといて……別に弟子にするくらいいいんじゃないか。持て余していた暇は潰れるし、嫁も欲しがってただろ。同時に達成できて良かったな」
「……嫁はせめて女の子がいい……」
「贅沢言うなや」
「うう……」
そんなこんなでポチのお気に入りになったアデルは、ノーマの一番弟子――というか嫁――のポジションをゲットしたのだった。
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