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アデルがノーマの弟子になって、三日が経過した。 今日は天気がいいので、二人で外に洗濯物を干している。本来ならば家事全般は引き受けると言ったアデルに一任したいところなのだが、アデルは今まで一度も洗濯物を干したことが無いなどと言うため、ノーマは洗濯機の使い方や干し方から教えているのだった。 「……えっ、アデルって18なの!?」 「そうですけど?」 「ほんとに?どう見ても14くらいにしか見えないんだけど……」 アデルは背が低い上に童顔で、それに加えて華奢なため、まるで少女のようにも見える。 なので、嫁に貰っても犯罪者になるのはちょっとな……とノーマは思っていたのだ。 「お師匠様は29には見えませんよね」 「んん、それはどういう意味かな?」 アデルはその問いには答えず、無言で微笑んだ。そのためノーマは、自分が若く見えるのかもしくは老けて見えるのか、小一時間ほど悩んだ。 「ところで、いつから魔法を教えて頂けるんですか?」 「いや魔法の前に家事でしょ、きみが覚えなきゃいけないのは。よく家事したことないくせに家事全般引き受けますとか言えたよね……それに魔法を教えても、きみには魔法が使えないからなあ……」 「そもそも魔法って、世界を滅ぼす以外に何ができるんです?」 「人の話はちゃんと聞こうね……っていうか世界滅ぼさないから!!」 ノーマは洗濯物のシワを伸ばしながら、一応師匠らしく――『お師匠様』と呼ばれることは満更でもないのだ――自分が使える魔法について説明することにした。 「魔法ってのは、んーと……呪文を唱えたり精霊や妖精の力を借りることが多いんだけど、オーソドックスなのは空を飛んだり、風や火を起こしたり雨を降らせたり……」 「人も殺せますか?」 「虫も殺せないような顔して物騒なこと言うのやめてよ!殺せるけど!でもそういう行為は魔法使いでもリスクが高いし、そもそも犯罪だし、俺は犯罪者にはなりたくないので人殺しはやりません!罪悪感半端ないよ!」 「じゃあ僕はどうやって親を殺した奴らに復讐したらいいんですか!?」 「復讐なんて忘れて幸せに暮らしなさい!亡くなったご両親もきっとそれを君に望んでいるはずだからぁ!!」 こんな漫画みたいな綺麗事を言う日が来るなんて、ノーマは思っていなかった。 「でも父は死ぬ間際、『必ず奴らに報復しろ、そのあとお前が世界を征服するんだ』と僕に言い残して死にましたよ」 「君のお父さんは悪の帝王か何かかな?」 悪の帝王の息子ならば多少の魔法も使えるだろうが、彼は普通の人間だった。 ならば、やはり彼の父も人間なのだろう。魔法使いはほぼ、遺伝体質なのだ。 「……死んだ人にこんなことを言うのはアレだけど……君のご両親が死んだのって、自業自得くさくない?」 「ええ、まあ、そう言う人もいるでしょうね。父はある国の国王で、民に重い税をかけて自分は豪遊し、税を払えない民は奴隷扱いして理不尽な処刑も沢山行って、とうとう耐えきれなくなった民が反乱を起こしてその時にサクッと殺されましたから」 「う~わ~……」 「するとおまえ、王子様なのか?」 今まで二人のそばで黙って話を聞いていたポチが、アデルに質問した。 「そうですけど」 「やったなノーマ、逆玉ってやつだぞ」 「でも僕、王子の資格剥奪されましたよ。だから元・王子です。国も民主主義になって国王なんかいらーんって流れになったので、残りの王族は全員殺されるか、追放されました」 「きみは殺されなかったんだ?」 「神に愛された美貌を持つ僕を殺せる民なんていませんから。まあ、そんなわけで手始めに民の奴らを皆殺……復讐しようと思って、貴方に弟子入り志願にきたわけです」 「すっごい逆恨みもいいとこだね」 「何しろ相手の人数が多いですからね、魔法でも使わなきゃ大量虐殺(ジェノサイド)は無理かなって」 「……おそろしい子……」 大体の事情は分かった。 しかし、魔力を持たないアデルにノーマが魔法を教えることはできない上、わざわざ犯罪者を育成したくないので彼を魔法使いにするだなんて(できないけれど)もってのほかだ。 「とりあえず、そういう事情なのでよろしくお願いしますね」 「えっ何、もしかして俺に代わりに復讐させようとしてる?しないよ!?」 「弟子ができないことは師匠が代わりにする。そんなの当たり前でしょう?」 「当たり前じゃないから!もう、さっさと洗濯の続きするよ!!」 アデルの自己中心的な性格はやっぱり元王子様だ――そう思いながら、ノーマは次の洗濯物を手に取り、広げてシワを伸ばす。 「ていうか、なんで世界一の魔法使いがこんなちまちまと家事なんかやってるんですか?魔法でちゃっちゃっとできないんですか?しもべ妖精とかいないんですか??」 「しもべ妖精はうちには来てくれないんだよ!多分原因はポチが咬むからだけど……」 ポチがくぁ、と欠伸をした。 「じゃあ乾燥機買いましょうよ」 「文明の利器は値段が高いんだよ、別にいいじゃんアナログ生活。それに君はちょっとは家事を覚えなさい。ここでは誰もきみを王子様扱いなんかしないからね!」 「分かってますよ、誰も王子様扱いしてくれなんて頼んでいないでしょう?僕は貴方の一番弟子であり、お嫁さんなんですから」 「およめさん」 「そ、お嫁さんです」 「へへ……」 「キモッ」 そうボソリと言ったのは、ポチである。 なんだかんだこの三日間で、ノーマとアデルは結構良い関係が築けているのだった。

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