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第4話

「だから!俺はこんなやり方は反対だったんだ!」 「いいから黙っておっさん探してよ師匠」 薄暗い会議室で呪術師が叫び、アグラディアがそれをなだめる。 男につけられた淫紋から、淫魔の親分が特定されたのは3週間前だ。 なんとか男に接触させず淫魔をおびき出そうと、呪術師が警察と協力してあれこれしていたが、他にも被害が拡大したことで今回の強硬手段が決定されたのが1週間前。 男を使う囮捜査だけは避けたかった呪術師だったが、『全ての呪術師に課せられる捜査協力義務』と、国家権力に逆らえるわけもなく、こうして自ら捜査に当日参加することを認めさせるので精一杯だった。 街に到着後、男と別れてから捜査班と合流し、バレない程度の距離とマスキング術で気配を消して付け回す事2時間。 男につきまとう雑魚に呪術師が逐一キレるので尾行から外され、やきもきしていた所、 立て続けのアクシデントで撒かれてしまったと残りの追っ手から報告が来たのが1時間前。 目下見失ってしまった男の行方を呪術師が術用地図と振り子を使って探査中だ。 広げられた術用地図の上に振り子を翳して、呪術師は一心不乱に探査術を展開する。 ほの青い魔術光をまとった式が術地図上に広がっては回転して男を探した。 しかし、肝心の振り子に求める反応は見られない。 イライラしながら呪術師が怒鳴る。 「追跡班は何してたんです?!」 「田舎で鍛え上げたおっさんの全力疾走×二回の上に、特級馬車まで登場しちゃうなんて思わないでしょお?追跡班は頑張った方だよ」 アグラディアが気の毒な部下を庇った。この男は警察官ではないが、ワケアリな国家の犬として呪術師の居る所なら姿を替え職を変え何処にでも顔を出す。この呪術師とも腐れ縁が長い。そんな忌々しさを込めて呪術師が睨んだ。  「もう少し足腰丈夫な部下を呼べ!」  「それにしてもおっさんのフェロモン凄いねえ。封印具つけてあれだもん。ちょっと漏れただけで相性の良いそのへんの男がぞろぞろひっかかるひっかかる。もうあれは兵器だよねえ」  「やっぱり俺がついて行くべきだった。旦那に近づく下衆はみんなぶち殺してやる!」  「師匠、本屋の痴漢見かけた所で死ぬほどキレたもんね。銃器担いで出ていこうとした時は抑えるの大変だったなあ。昼日中に発砲事件とかホント勘弁してよ?」  「ありゃあ殺しておいたほうが世の中のためだ」  「ちゃんと部下にフォローさせたでしょ?おっさんは多分痴漢だってことにも気付いてないよ」  「そのあとのチャラ男も殺しておきたい」  「師匠過保護じゃない?まあ過保護じゃなきゃ何週間も自宅に閉じ込めたりしないかあ」  「あれは旦那の魔力を落ち着かせるために」  「今までも淫魔に取り憑かれかけた患者何人もいたけど、そんな事したことないじゃん、じゃん!」  「治療方針に患者に合わせた臨機応変な適宜変更があるのは仕方ねえでしょう」  「ホント口が回るんだからぁ。おっさんマジ騙されてるぅ」  「大体なあ、何にも知らせずにド素人の旦那を淫魔の囮に使うなんて、無謀が過ぎるんですよ!」  「だっておっさん屈強だし、多少は大丈夫だと思うじゃん?第一嘘が下手過ぎるんだよあの人。言ったらぜったい淫魔にバレる」  「そうですけど!そうですけどね!?」  「おっさんを狙ってる淫魔の親玉ほっとけないでしょー?被害はおっさん以外にも出てるしぃ、人に擬態するのが上手いから迂闊に手も出せないしぃ」  「他に適当な餌は用意できなかったんですかい!」  「おっさん程魔力たっぷりなのは何処探しても居ないって。こっそり測ったら計測器振り切っちゃったんでしょ?しかもそれを淫魔も知ってる可能性高いんでしょ?もう淫魔的におっさん狙うしかないじゃん!」  「確かに旦那は色々たっぷりですがね!喰っていいのは俺だけなんだ!」  「はいはい。いいから今度はこっちの地図ね」  アグラディアの差し出す新しい術地図を受け取って、呪術師は内心呟く。 (旦那、頼むから無事でいてくれよ……)

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