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第5話

潤の姿が見えなくなってすぐに、オレは食料の整理もそこそこに、預かった手紙を持って師匠の部屋へ行く。 今回は長い日数、宿舎に足止めされた。 顔を見るのは、十日ぶりくらいだ。 「師匠!」 階段を駆け上がり、扉を叩くのももどかしく、部屋に飛び込む。 「おかえり、千草。ちょっとそこで止まっていてくれるかい? 黒点図が散らかっているから」 そう、柔らかな笑顔を声で言い切ったのは、この塔の主。 オレの師匠でオレのすべて。 真朱さま。 平均的な男性の身長に、細身の肉付き。 あかがね色の髪は、緩く一つにまとめられて背に流れている。 声をかけられて慌てて歩みを止めた。 久しぶりに会えることに浮かれていたのは、自分ひとりだったのかと、少し水を注された気分になる。 それでも、気を取り直す。 まだ日が昇っている。 天空に日がある間は、オレたちにとっては仕事の時間。 特別な道具を使って描き留められた、太陽の黒点。 それは、気候を推し量るのに重要な資料になる。 「今、分析中ですか? 描き留めるだけなら、オレやります」 「何かあった?」 「月白(げっぱく)さまからの手紙を預かっています」 「そう。それでは、頼もうかな」 床の上の紙をまとめて通路を作りながら、師匠の横にたどり着く。 手紙を渡してペンを受け取ると、黒点を描く装置に紙を取り付けた。 「月白には、直接会ったの?」 封を切りながら、師匠からの問いかけがある。 月白さまは月の塔の責任者。 師匠はここ、日の塔の責任者で、お二人は直接会うことはほとんどないけれど、昔からとても仲がいいらしい。 「はい。ちょうど学舎の方におられて……って、師匠?」 返事をしながら師匠を見ると、ちらりと文字に目を走らせた師匠はぽい、と手紙を投げやっていた。 ホントにやる気なさそうに。 「読む気にもならない。私の髪の量がどうだろうと、月白の知ったことじゃない。人のことを気にするくらいなら、自分のことを気にすればいい」 「月白さまは、お寂しくなっておられますからね」 「私はまだふさふさだよ、ざまあみろ、だ」 「でも、月の塔ではもう、後継者が決まったのでしょう?」 「……千草」

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