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第2話

初めて会ったのはいつだったか。 日が暮れ始めた街の一角。 お互い『人間』の振りをしていたが、一目で正体が分かった。 『純血の吸血鬼なんて、初めて会った。』 そう言って目をキラキラとさせた彼は、その日から何故か異様に懐いた。 狼男なんてただの犬と変わらないと思っていたが、彼のしなやかな身のこなしと時折見せる野性味に、いつしか目が離せなくなった。 『吸血鬼って昼間でも平気なんだな、灰にならねぇんだ。』 『...バカバカしい』 日差しの強い小川で狼二匹と水浴びを楽しみながらそう言った彼の笑顔は無邪気で。 自分が闇ならば彼は太陽のようだと思った。 忍んで近づけば存在に気付かれることなく獲物を狙えるのに、彼にはいつも気付かれる。 鋭い嗅覚と聴覚、そして野生に生きる直感力 それらが大きいのだろうが、それでもこうも見破られると面白くない。 『君、生意気だよね。』 不貞腐れたガキのように呟けばケラケラと笑われた。 『番になりたいヤツの存在に気付かないなんてこと、有るわけないだろ。』 さらりとそう言ってのけると、彼は熱い唇を押し付けてきた。 人間の世界から盗んできたのか目の前にはアルコールの瓶が数本転がり、彼の呼気には強い酒の匂い。 広がる夜空には満ちた大きな月。 互いの能力が最も強まる夜、酒の勢いか本能か...判別はつかないままに何度も唇を重ねた。 『俺...あんたと生きていきたい。』 『ガキが、調子に乗るな。』 真っ直ぐに見つめてくる瞳はやはり太陽のようで。 素直になるには生きすぎた自分とは違っていた。 「...やっと来た。」 「待ち合わせていた訳じゃないだろう?」 そう言えば差し出された手。 それを引き、抱き着いてくる腰に腕を回した。 若く、引き締まった身体。 人間のような...ましてや女のような柔らかさなど微塵もない。 それでもこうして腕の中に収めると不思議と心が落ち着く。 「...ほら、吸えよ。」 「情緒ないな。」 当たり前のように晒された首筋に笑いが溢れた。 彼は僕が吸血鬼だから血を吸われるのが普通の事だと思っている。 知らないのだ。 この行為には二つの意味があることを。 人間相手に食事をするのではない 吸血鬼にとって食事以外で血を吸うことは最大の愛情表現 「ん...」 僅かに声をあげ長い指が髪をすいてくる。 それが気持ち良い。 視線の先では二匹の狼がジッと主人を見つめている。 悪いね、君たちの飼い主は僕のものだ... けして彼には伝えない。 胸の奥に潜む独占欲を言葉にはしない。 「...甘いな。」 「旨いなら良かった。」 自嘲を込めた呟きを味と勘違いした彼が笑う。 その笑顔が眩しくて、腰に回した腕に力を込め顔を隠したー。

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