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第3話

西日が雲を赤く染め、鳥の囀りは虫の音へと切り替わっていく。 パチッとはぜる薪をぼんやりと見つめていれば、腕の間に夜が顔を突っ込んできた。 「っと、なんだよ急に。」 ペロペロと顔を舐めてくる夜の頭を笑いながら撫でてやれば、それを見ていた闇も横から割り込んでくる。 「わっっ!」 甘えん坊な狼二匹は大きな体を擦り寄せ、その勢いにバランスを崩してその場に倒れた。 遊んでもらえたと喜ぶ二匹をギュッと抱き締め、そのまま暫くじゃれ合う。 「よし!街にでも行って酒かっぱらってくるか!」 見つめてくる狼にニカッと笑って見せ、勢いよく立ち上がる。 その声と動きに、尻尾を振って応える夜と闇。 家族である二匹を両脇に空を見上げた。 間もなく夜空が広がる。 暗闇こそ自分達のテリトリーだ。 ···あの男も ここ数日は姿を見ていない。 待ち合わせていないのだから、不満を言うつもりはない。 ただ、少し···寂しいだけだ。 そこまで考えて、小さく笑いが溢れた。 『寂しい』なんて今まで感じなかった。 長い年月狼と生きてきて、孤独は彼らが埋めてくれた。 僅か数日···たった数日会えないだけで寂しいだなんて、こんなに自分は弱かっただろうか。 「·············」 太股に感じる温もりに視線を落とす。 まるで元気付けるように体を擦り寄せ、それぞれが見上げてくる。 その頭を撫で安心させるように微笑んで見せた。 いつか、この二匹も自分を置いて逝ってしまう。 何度も同じ経験を繰り返し、その度に涙を流してきた。 だからこそ同じ時を生きていける仲間が欲しいと願った。 そんな時に出会った吸血鬼。 最初は『仲間』になって欲しいと思った。 いつも側に居なくても良い···だけど語り合える仲間になってはくれまいかと。 でも日を重ねる毎に自分の中で育つ感情はそんな簡単なものじゃなくて。 会えば会っただけ知りたいと思った。 声を聞けば体が震えた。 触れてみるともっと触れたくなった。 この感情が『恋慕』なのだと気付くのに時間は掛からなかった。 「会いたいよなぁ···」 小さな呟きは白い息と共に空気に溶け込む。 次に会ったら濃厚な口付けの一つくらいしても良いだろうか··· というか、してやる。 『生意気なんだよ、君』 口付けを拒まない代わりに紡がれるセリフは、いつもどこか愉しそうで。 軽く睨んでくる漆黒の瞳と、紅く薄い唇を思い出してゾクッと心が震えたー。

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