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第2話

 稲葉友悟(いなばともさと)にとって、そのおまじないが特別なものになった理由は、思い人が口にしたおまじないだったからだ。  そのとき、宇佐野浜高校二年A組の教室は昼休み、各々がお昼ご飯を食べ終え、どことなくけだるげな空気が漂っていた。 「空から落ちてくる雨の最初の一滴が、鼻のてっぺんに当たれば恋が叶う」  雑誌をめくっていた友悟の前で、机に頬杖をついた格好で高橋秋斗(たかはしあきと)が突然、そんなことを呟いた。 「え? なに? それ、秋斗」  友悟はきょとんと聞き返した。 「昨日、テレビのアニメの主人公が言ってたんだよねー。ほら、今日うっとうしい天気だろ? だからなんとなく思い出してさ」  秋斗はそう言うと、窓の外へと視線を投じた。  初冬の空は重い雲に覆われている。 「なになに? 秋斗。おまえ、アニメとか見るの?」 「イメージじゃないなあ。で、なに系のアニメ? もしかしてエロ系? だったら教えろよ。なんていうアニメなんだよ?」  傍にいたほかの男子生徒たちも会話に参加してくる。 「たまたまついていたアニメだったから、タイトルまでは分からないよ」  秋斗がそう答えたとき、今度は女子生徒たちがキャピキャピうれしそうに話に加わってきた。 「ねーねー、高橋くん、さっき言ってたの、恋のおまじないだよねー?」  いつの時代も女の子というのは、おまじないや占いといったものが大好きである。  加えて、高橋秋斗は、少し近寄りがたい雰囲気を持つクールなイケメンで、スタイルも抜群だ。  これで女の子にもてないはずがなく、当たり前のように女子生徒たちの憧れの的だった。  そんな秋斗が言ったおまじないだったため、女子たちは異常なほど興味深々である。

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