6 / 87
第6話
宇佐野浜高校は一、二年とクラス替えがなく、二年生の終わりに修学旅行へ行くのだが、そのときまでにもっときたえて、秋斗をびっくりさせたいと密かな野望を抱いている。
今までに一緒にプールや海へ遊びに行ったときは、まだ貧弱な体をさらしていたから、マッチョ……はどう考えても無理そうだけど、小マッチョくらいにはなんとかなりたい。
『秋斗、僕、脱いだらすごいんだよ』
なんて言っちゃって、僕の綺麗な筋肉に惚れ惚れさせちゃうんだ……。
「おい、白兎、なにニヤニヤしてるんだ?」
友悟は理想の自分を思い浮かべて、つい顔が緩んでしまっていたようだ。
「……に、にやにやなんかしてないよ」
「してたよ。ニンジンのことでも考えてた? 白兎はうさぎだからな」
秋斗は笑いながら白兎の額を軽くつつく。
その場にいるクラスメートたちがクスクス笑っている。
「秋斗、人のこと、うさぎうさぎって言うなよ。だいたい、僕がニンジン嫌いなこと秋斗知ってるくせに」
「うさぎのくせに、ニンジン嫌いだなんてな」
「あ、またうさぎって言ったー」
友悟と秋斗が言い合っていると、女子生徒の一人が二人のあいだに割り込んできた。
「でも、確かに稲葉くんって、うさぎさんぽいよねー。あたしもこれから稲葉くんのこと、白兎くんって呼んじゃおっかなー」
とんでもない、と友悟は思った。
白兎というあだ名も、うさぎうさぎとからかわれるのも、秋斗だから許せるのであって、他の誰にもそんなふうには言われたくない。
ともだちにシェアしよう!