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第19話

 保健室には誰もいなかった。  扉を開けて、すぐ目につくところに絆創膏や傷薬、胃腸薬などが入った救急箱が蓋を開けた状態で置かれている。  どうやら先生は少し早いお昼ごはんへと出かけたらしい。  職務怠慢もいいところだが、もう高校生なのだから、ちょっとくらいのケガや体調不良は自分で何とかしなさいと言いたいのだろう。  なんにせよ、そのときの友悟にとっては、誰もいないほうがありがたかった。  友悟は秋斗に促されて、一番奥にあるベッドへ横になった。  秋斗がタオルを濡らしてきて額に当ててくれる。  熱があるわけではなかったが、ひんやりとしたタオルは、乗り物酔いにも似た気持ち悪さを緩和してくれる。  秋斗が椅子を持ってきて友悟のベッドの傍に座り、カーテンを閉めた。  薄い布一枚に囲まれているだけなのに、なんだか急に密閉された空間にいる気持ちが高まってくる。  秋斗と二人きりの空間……。  現金なもので、さっきまでは吐き気に苦しんでいたというのに、今は甘いときめきが友悟の胸を満たしていた。  秋斗は切れ長の目に心配の色を浮かべ、友悟を見下ろしていて、彼のやさしい視線が心を甘く切なく疼かせる。  授業中の保健室はゆったりと静かな時間が流れていて、なんだかこのままだと胸のときめきが秋斗にまで届いてしまいそうな気がした。 「もう大丈夫だよ、僕。秋斗」  だから友悟は、静けさを破って起き上がろうとしたのだが、秋斗にとめられてしまった。 「もう少し横になってろよ。どうせ授業には間に合わないし」 「うん……。ごめんね、秋斗。つき合わせちゃって」  もうとっくに授業開始のチャイムは鳴っていた。結局、二人は体育をさぼることとなったのだ。  

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