20 / 87

第20話

「オレもワタナベの体育は嫌いだから、さぼれてラッキーだよ」 「ありがとう……秋斗」  今更、授業に駆けつけても、ワタナベ先生の厳しい叱責と、罰としてのグランド三周が待っている。さすがにそれはキツイ。 「……あれ? そういえば」  友悟は不意に気づいた。 「ん?」 「秋斗、先に着替えて、更衣室出て行ったよね? どうして戻ってきてくれたの?」 「ああ……、廊下の角を曲がるとき増月たちとすれ違ってさ。なんとなく気になって見ていたら、あいつら更衣室に入っていって。白兎が着替えに入ったばかりだったから、心配になって」 「そうなんだ……。ありがとう」  本当に秋斗が来てくれなかったら、あのまま増月たちになにをされていたんだろ?  あんまり考えたくないな。ゾッとするよ。  ……それにしても、さっきの秋斗、本当にかっこよかったな。王子様か正義のヒーローって感じで。  まあ、僕が救われる相手役っていうのは少々難ありってところだけど……。  あ、ていうか、これこそ因幡のしろうさぎってやつかな。大黒様に助けられるうさぎ……。  ……ああ、でも。 「ね、秋斗」 「ん?」 「あの、さ」 「なに?」 「その……僕の胸って、そんなに、あの……変なのかな?」  さっき増月に言われた言葉がずっと心に引っかかっていたので、ついそんな言葉が口から飛び出した。  だって……気になる。  体育の授業の着替えなどで、もちろん秋斗も友悟の胸を見ている。  確かに増月が言ったように、自分の胸筋は秋斗の引き締まったそれとは比べ物にならない。  落ち込んでうつむく友悟に、秋斗から帰ってきたのはからかいの言葉でも失笑でもなかった。 「……体質によっては、柔らかい筋肉がつく人だっているだろうし、ぜんぜん変じゃないよ。それに……」  秋斗はそこまで言ってから、いったん言葉を切ると、 「それにさ、友悟」 「えっ……?」  いつもの呼び方の『白兎』ではなく、名前を口にした。  友悟はかなり驚き、トクン、と胸の鼓動が跳ね上がった。    最初、知り合ったばかりの頃、秋斗は友悟のことを『稲葉』と名字で呼んでいた。  それが仲良くなるうち『白兎』へと変わった。  記憶をさかのぼっても、彼に『友悟』と呼ばれた覚えはない。

ともだちにシェアしよう!