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第20話
「オレもワタナベの体育は嫌いだから、さぼれてラッキーだよ」
「ありがとう……秋斗」
今更、授業に駆けつけても、ワタナベ先生の厳しい叱責と、罰としてのグランド三周が待っている。さすがにそれはキツイ。
「……あれ? そういえば」
友悟は不意に気づいた。
「ん?」
「秋斗、先に着替えて、更衣室出て行ったよね? どうして戻ってきてくれたの?」
「ああ……、廊下の角を曲がるとき増月たちとすれ違ってさ。なんとなく気になって見ていたら、あいつら更衣室に入っていって。白兎が着替えに入ったばかりだったから、心配になって」
「そうなんだ……。ありがとう」
本当に秋斗が来てくれなかったら、あのまま増月たちになにをされていたんだろ?
あんまり考えたくないな。ゾッとするよ。
……それにしても、さっきの秋斗、本当にかっこよかったな。王子様か正義のヒーローって感じで。
まあ、僕が救われる相手役っていうのは少々難ありってところだけど……。
あ、ていうか、これこそ因幡のしろうさぎってやつかな。大黒様に助けられるうさぎ……。
……ああ、でも。
「ね、秋斗」
「ん?」
「あの、さ」
「なに?」
「その……僕の胸って、そんなに、あの……変なのかな?」
さっき増月に言われた言葉がずっと心に引っかかっていたので、ついそんな言葉が口から飛び出した。
だって……気になる。
体育の授業の着替えなどで、もちろん秋斗も友悟の胸を見ている。
確かに増月が言ったように、自分の胸筋は秋斗の引き締まったそれとは比べ物にならない。
落ち込んでうつむく友悟に、秋斗から帰ってきたのはからかいの言葉でも失笑でもなかった。
「……体質によっては、柔らかい筋肉がつく人だっているだろうし、ぜんぜん変じゃないよ。それに……」
秋斗はそこまで言ってから、いったん言葉を切ると、
「それにさ、友悟」
「えっ……?」
いつもの呼び方の『白兎』ではなく、名前を口にした。
友悟はかなり驚き、トクン、と胸の鼓動が跳ね上がった。
最初、知り合ったばかりの頃、秋斗は友悟のことを『稲葉』と名字で呼んでいた。
それが仲良くなるうち『白兎』へと変わった。
記憶をさかのぼっても、彼に『友悟』と呼ばれた覚えはない。
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