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第25話

 気づけば、いつの間にか制服のズボンもシャツもきちんと整えられ、布団をかけられていた。 「秋斗……」  友悟はようやく自分をしっかりと取り戻した。  ……秋斗はいったいどうして、僕にあんなことをしたの?  自惚れた答を勝手に出してしまいそうになるが、もし自意識過剰なだけだとしたら、かなり恥ずかしい。 「ん? ……なに?」  やさしい微笑みを浮かべている友悟の思い人。 「あ、あのさ、な、なんで――」  友悟が、秋斗の行為の真意を問おうとしたとき、四時間目終了のチャイムが鳴り響いた。  午後の授業というのは、やたらと眠くて集中力も散漫になるものだが、その日の友悟はいつもにも増して上の空状態だった。  正直言って授業どころではなかった。  理由はもちろん決まっている。四時間目に保健室で、秋斗にされた色々なことで頭がいっぱいなのだ。  初めて『友悟』と呼ばれて、体に触れられ、口づけをされ、そして彼の手で絶頂に導かれた。  それらが次から次へとフラッシュバックして、顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。  友悟は真っ赤になっている顔を教科書で隠すようにして、斜め前方の席に座る秋斗を盗み見た。  少し離れた友悟の席からでもはっきりと分かる、彼のちょっぴり冷たそうな美貌。  切れ長の目は真っ直ぐに黒板に向けられている。  友悟は教科書に隠れて小さく溜息をついた。  ……なんか悔しい気がする。  保健室での出来事は、友悟にとってそれこそ青天の霹靂だった。  いったい秋斗はなぜ友悟にあんなことをしたのか、その真意を聞こうとしたときに授業が終わるチャイムが鳴り、続けて先生が昼食から戻ってきてしまった。  結局、なにも聞けなかったんだよね……。  保健室を出るときは、秋斗はすっかりいつもの彼に戻っていた。まるでなにもなかったかのように……。

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