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第26話

 呼び方もまた『白兎』に戻ってしまったし。  少々恨めしい気持ちで、友悟は秋斗の端整な顔をこっそりとにらんだ。  あの後の昼休みも、友悟はお弁当が喉を通らなかったのに、秋斗はいつも通りの食欲を見せていた。  あんな……、あんなことを僕にしたくせに……。  でも……、不意に友悟は思った。  もしかしてあの行為をすごく特別なものに感じ、こだわる僕のほうがおかしい?  思い出してみれば、増月に体を触られ、気持ち悪くなった友悟を気遣い、秋斗は『消してやるよ』と言ってくれたのだ。  そして彼の手で触れられ、上書きされるように、気持ち悪さは消えた。  あれは、秋斗にとってはそれほと意味がある行為ではなかったのかもしれない。  友悟は秋斗が好きだから、彼の行為はとても特別なものだったけれども……。  中学生の頃に行った修学旅行の夜を思い出した。一部の男子生徒たちがエッチな話で盛り上がって、なにをおかずに自慰をするか、なんて騒いでいた。  彼らの話はかなり過激で、奥手な友悟は布団の中で真っ赤になっていた。  ……あいつら、友達の家にみんなで集まり、エッチなDVDを見ながらそれぞれが好き勝手に自慰をするとか、そんなこと言ってたっけ。  だから秋斗もそういうノリで僕にああいうことをしただけなのかな?  男同士のじゃれ合いの範疇にある行為でしかなかったのだろうか。  分からない……分からないよ……。  恋愛ごとには僕は本当にうとくて奥手で遅れてて。  確かなのは僕が秋斗を好きだということだけ……。    斜め後方の席から思い人を見つめ、友悟はどうしようもない切なさを感じていた。  

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