28 / 87

第28話

 友悟の戸惑いをまとった問いかけに、秋斗は少し困ったような苦笑を浮かべ、言う。 「なんでって……、増月たちが途中で待ち伏せしているかもしれないだろ?」 「……あ」  どう答を返したらいいのか分からなかった。  確かに増月たちが更衣室でのことを根に持っている可能性は高い。  仕返しをするのなら、友悟が一人になったときを狙ってくるだろう。  そう考えると、恐怖と嫌悪感がよみがえってくる。  でもだからといって、家まで送ってもらうというのは……、本音を言えばうれしい。  うれしいけれど、それって高校二年の男としてかなり情けなくないか? か弱い女の子じゃあるまいし。  しかし、友悟が躊躇っているあいだにも、秋斗はどんどん先に歩いて行ってしまう。 「あっ……、ちょっと待ってよ、秋斗っ」  男としてのプライドは横に置いといて、友悟は思い人のあとを追いかけた。  好きな人と並んで家路につく。  なんだかんだいっても、やはり秋斗と肩と肩が触れ合う距離で歩くひとときは、とても愛おしい。 「そういえばオレ、友悟の家へ行くのって初めてだな」  秋斗がそんなことを呟いた。 「うん。僕も秋斗の家って行ったことないよ、そういえば」 「しょっちゅう二人で遊びに行ってるのにな」 「うん……」  仲良くなって一年半以上が経つのに、お互いの家へ遊びに行ったことはなかった。 「いつも学校から直で遊びに行っちゃうからな」  そう駅前の繁華街に行くにしても、電車に乗って都心に出かけるにしても、いったん家へ帰ってからまた出てくるというのは面倒なのだ。  休日にしたって同じだ。  駅で待ち合わせて、それから遊びに繰り出す。  二人のうちのどちらかが一人暮らしでもしていれば、また話は違っていたのかもしれないけれども。  そんなことを頭の片隅でぼんやりと考えていたとき、ふと友悟は気づいた。  秋斗の歩く速度が若干、本当に心持ち程度だが、自分よりも早いことに。 「……ね、秋斗、僕の自宅への道、知ってるの?」 「えっ?」  瞬間、秋斗が狼狽えたような表情をしたみたいに見えたのは、気のせいだろうか。

ともだちにシェアしよう!