30 / 87

第30話

「大黒王子のオレが傍にいても、怖い? 白兎」 「うーん。秋斗が本当に大黒様だったら、平気かもね。だって神様だもん。最高に心強いよ」 「でもさ、知ってるか? 白兎。『因幡のしろうさぎ』の伝説って、実はうさぎのほうが位の高い神様で……っていう話があるんだよ」 「えっ? 本当?」  友悟は驚いた。  因幡のしろうさぎのお話と言えば、皮をはがれて泣いているうさぎを、通りかかった大黒様が助けてくれて、もとのふかふかのしろうさぎに戻してくれる……そういうものだと思っていた。  目を丸くしている友悟を見て、秋斗は小さく笑ってから言葉を紡いだ。 「ああ。子供の頃、家に因幡のしろうさぎの絵本があってさ。オレ、その絵本を祖父ちゃんに読んでもらう度に、うさぎが皮をはがれて泣いている場面で『うさぎがかわいそうだ』って泣いてさ。そんなオレに祖父ちゃんが言ったんだ」 「なんて?」 「本当は、しろうさぎは位の高い神様の化身で、通りかかるいろいろな神様のやさしさを試していたんだって。で、泣いているしろうさぎに、他の神様たちは知らん顔して通り過ぎたり、海水をかけて意地悪したりしたんだけど、大黒様だけはしろうさぎにやさしくして、もとのふかふかのうさぎに戻してあげたんだ。だからしろうさぎに化けていた神様は、大黒様を日本の神様に加えることにしたんだって」 「へえ!? じゃ本当は、大黒様はしろうさぎのテストを受けて合格したってこと?」 「うん。だから祖父ちゃんの話で言うと、大黒様よりしろうさぎのほうが立場は上ってことらしいよ。それを知ってからオレ、因幡のしろうさぎの話を聞いても泣かなくなったんだ」

ともだちにシェアしよう!