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第32話
「おかえりなさい、友くん」
そう言いながらも、母親の視線は息子を通り越し、秋斗を見ている。
「あなた、秋斗くんね! 高橋秋斗くん! そうでしょ!?」
「え、あ、はい」
母親のはしゃぎように、秋斗は少し面食らっているようだ。
「やっぱりー! うん、確かに芸能人みたいに垢ぬけた超イケメンだわー!!」
「お母さん、ちょっと落ち着いてよ」
母親のはっちゃけぶりには、友悟のほうが恥ずかしくなった。
けれども秋斗は落ち着きを取り戻していて、礼儀正しく自己紹介をしている。……にっこりと眩しすぎる笑顔まで添えて。
そのキラキラの笑顔に、親子そろってしばしポーッと見惚れてしまった。
「ちょうどよかったわー。シュークリームを買ってきたの。とてもおいしいケーキ屋さんのでね。……さ、おうちへ入ってちょうだい」
頬をほんのりとピンクに染め、まるで少女のようにはしゃぎながら、母親は玄関のカギを開ける。
「上がってってよ、秋斗」
友悟もドキドキする胸を抑えつけながら、中へ入るように秋斗を促す。
「ありがとう、お邪魔します」
会釈とともに秋斗は家の中へと入った。
二階にある友悟の部屋へ二人は腰を落ち着けた。
……好きな人が来るって分かっていたら、もっときちんと掃除しとくのにー。
友悟がそんなことを考えていると、秋斗が言った。
「なんか想像していたのと違う、白兎の部屋」
「そ、そう?」
「ああ。もっとぬいぐるみとかがあると思ってた。うさぎのぬいぐるみとかクッションとかさ。でもけっこうシンプルな部屋なんだな」
「……秋斗、僕、高校二年の男なんだけど……」
「でも白兎はうさぎだから」
「またうさぎうさぎって」
そんなどうでもいい会話を交わしていると、母親がシュークリームと紅茶をトレイに乗せて、いそいそと入ってきた。
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