34 / 87
第34話
秋斗は一足先に食べ終え、紅茶のカップをソーサーに戻すと、
「白兎のお母さんって、すごい美人だな」
唐突にそんなことを口にした。
「そうかな?」
「うん。オレ、ファンになっちゃいそう」
「あはは。お母さんが聞いたら、小躍りして喜ぶよ。お母さんのほうこそ一目で秋斗の大ファンになったみたいだから」
「……白兎はお母さん似だな?」
「え? そ、そう?」
「ああ。よく似てる。お母さんが高校生の頃って、今の白兎そっくりだったんだろうな」
「うーん……」
褒めてくれているのだろうが、友悟としては素直に喜んでいいのか複雑である。
「でも、うさぎっぽさは白兎のほうが上だけどな」
「もー、またうさぎー? ……そういう秋斗はご両親のどっちに似てるんだよ?」
友悟がそう聞いてみると、秋斗はちょっと考えるような表情をした。
「そういえば、どっちだろ。特にどっちに似てるとかって言われたことないし。今度、白兎がオレの家に来て、判断してくれよ」
「えっ? い、いいの?」
「なにが?」
「秋斗の家へ行っても……」
「なにを今更。オレだって、こうして白兎の家にお邪魔させてもらってるじゃん。いつでも大歓迎だよ、白兎なら」
やさしい声で、やさしい瞳で、やさしい笑顔で、そんなふうに言われ、友悟は舞い上がった。
あー、本当、秋斗って罪作りだよなー……。
友悟は秋斗に出会ったことによって、自分がゲイだということに気が付いた。
でももしかしたら、ゲイじゃなくったって、秋斗になら恋をしていたかもしれない。
だって魅力的だもん……。性別なんか関係なしに恋しちゃってもおかしくないよ。
だから、女の子なら絶対に彼に惹かれるだろう。
そう考えると、友悟の心は一気に沈んでしまう。
女の子か……。秋斗、今は彼女はいないっていっても、好きな女の子くらいはいるんだろうな。
針で刺されたかのように友悟の胸が痛んだ。
友悟はゲイで、男として、男性……秋斗に愛されたいわけで、女の子になりたいとは決して思っていない。
でもそれでも、たった一つだけ女の子がうらやましく思う。
だって堂々と秋斗に気持ちを伝えることができるもん……。
ともだちにシェアしよう!