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第34話

 秋斗は一足先に食べ終え、紅茶のカップをソーサーに戻すと、 「白兎のお母さんって、すごい美人だな」  唐突にそんなことを口にした。 「そうかな?」 「うん。オレ、ファンになっちゃいそう」 「あはは。お母さんが聞いたら、小躍りして喜ぶよ。お母さんのほうこそ一目で秋斗の大ファンになったみたいだから」 「……白兎はお母さん似だな?」 「え? そ、そう?」 「ああ。よく似てる。お母さんが高校生の頃って、今の白兎そっくりだったんだろうな」 「うーん……」  褒めてくれているのだろうが、友悟としては素直に喜んでいいのか複雑である。 「でも、うさぎっぽさは白兎のほうが上だけどな」 「もー、またうさぎー? ……そういう秋斗はご両親のどっちに似てるんだよ?」  友悟がそう聞いてみると、秋斗はちょっと考えるような表情をした。 「そういえば、どっちだろ。特にどっちに似てるとかって言われたことないし。今度、白兎がオレの家に来て、判断してくれよ」 「えっ? い、いいの?」 「なにが?」 「秋斗の家へ行っても……」 「なにを今更。オレだって、こうして白兎の家にお邪魔させてもらってるじゃん。いつでも大歓迎だよ、白兎なら」  やさしい声で、やさしい瞳で、やさしい笑顔で、そんなふうに言われ、友悟は舞い上がった。  あー、本当、秋斗って罪作りだよなー……。  友悟は秋斗に出会ったことによって、自分がゲイだということに気が付いた。  でももしかしたら、ゲイじゃなくったって、秋斗になら恋をしていたかもしれない。  だって魅力的だもん……。性別なんか関係なしに恋しちゃってもおかしくないよ。   だから、女の子なら絶対に彼に惹かれるだろう。  そう考えると、友悟の心は一気に沈んでしまう。  女の子か……。秋斗、今は彼女はいないっていっても、好きな女の子くらいはいるんだろうな。  針で刺されたかのように友悟の胸が痛んだ。  友悟はゲイで、男として、男性……秋斗に愛されたいわけで、女の子になりたいとは決して思っていない。  でもそれでも、たった一つだけ女の子がうらやましく思う。  だって堂々と秋斗に気持ちを伝えることができるもん……。

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