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第35話
結局、二人は一時間以上も他愛のない話で盛り上がったり、ゲームをしたりして遊んだ。
楽しい時間は瞬く間に過ぎ、秋斗が友悟の家から帰るときには、もう日はとっぷりと暮れていた。
母親は彼にすがりつかんばかりに名残惜しがり、次の機会には絶対に夕食を食べて行ってほしいと誘っていた。
「シュークリームと紅茶ごちそうさま、白兎」
「ううん。僕のほうこそ今日は助けてもらったうえに、送ってもらっちゃって、ごめんね、ありがとう」
「これからしばらくは、毎日家まで送るから」
「えっ?」
さらりと言った秋斗に、友悟はびっくりした。
「な、なんで?」
「なんでって、増月の野郎、根に持つタイプっぽいじゃん。粘着質っていうか」
「え? いや、もう大丈夫だと思う……多分。だいいち家の方向、逆なのに悪いよ」
本音を言うと、増月のことは怖いし、なにより秋斗と少しでも長くいっしょにいられるのは、とても幸せだ。
でもそこまでしてもらうのは、やはり甘えすぎというものだろう。
なのに、秋斗はすっかりボディガードの表情である。
「オレが心配なんだよ。それとも迷惑かな?」
「そっ、そんな迷惑なんて、そんなはずないっっ」
思わず友悟は力いっぱい叫んでしまった。
「それじゃ決まり。な?」
「うん……。ありがとう」
やさしい秋斗、あまりやさしくされると、秋斗に彼女ができたとき、僕は耐えられなくなりそうだよ……。
友悟は帰っていく秋斗の後ろ姿を見送りながら、切なく疼く感情を持て余していた。
……今日は本当にいろんなことがあったな。
更衣室で増月に襲われかけ、秋斗に助けてもらって、それから。
それから、保健室での出来事……。
彼のさらさらした手の感触は、友悟の素肌に今もありありと残っている。
秋斗がなぜあんなことをしたのか、聞けなかったな。
友悟は秋斗が曲がり角を曲がり、見えなくなっても、しばらくその場に立ち尽くしていた。
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