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第36話

 その次の体育の時間、友悟はなおざりにラジオ体操をしながら、空を見つめていた。  薄い雲に覆われて青空こそ見えないが、雨には恵まれそうにない。天気予報の降水確率も二十パーセントと低い。  あーあ、と憂鬱な気持ちを溜息にして吐き出した。  おまじないの挑戦も見込めないうえ、この日の体育は友悟が一番苦手とするマラソンなのだ。  基本的に体力がないので、持久力が続かないのである。だからいつも一番後ろをフラフラになりながら走る羽目になる。  ひどいときには先頭グループに丸々一周抜かれるというありさまだった。  マラソンの授業は学校のグランドではなく、近くの公園で行われる。  公園の周りを三周すれば、ちょうど三キロになるらしいのだが、三キロという距離がどれくらいのものなのかイマイチ分からない友悟にとっては、果てしなく長い気がした。  マリッジブルーならぬマラソンブルーな気持ちを抱えて、公園への道をトボトボと歩いていると、秋斗が隣に来た。  友悟の顔をのぞき込んで言う。 「なに情けない顔してるんだよ、白兎」 「……僕がマラソン苦手なことくらい、秋斗だって知ってるだろ?」  ――増月の事件から三日、秋斗はずっと友悟を家まで送ってくれていた。  自宅までの道のりを二人でたどるとき、友悟はいつも思ってしまう。  もし二人が異性だったら、このことがきっかけで恋に発展するかもしれないのに、と。  でも二人は同性同士だから、それは叶わぬ夢というもので、いっしょにいるのが楽しければ楽しいほど、切なく苦しい思いも味わう。  今も友悟は秋斗への恋心を必死に隠して、友達の仮面を被って接している。

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