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第37話

「そりゃ秋斗はいいよ。いっつも先頭グループで走ってて。よく僕のこと一周追い抜いてくれちゃってさ」  友悟がいじけてみせると、秋斗はなにかを思いついたような表情をした。 「……分かった、白兎。今日だけ特別に、おまえにもマラソンの先頭グループの気持ちを体験させてやるよ」 「は?」  友悟は秋斗の言葉の意味が分からず、間抜けな反応をしてしまった。  やがて公園に着き、マラソンのスタート地点に立つ。  体育の鬼教師ワタナベがスタートの掛け声をあげた。  次の瞬間、友悟は秋斗に手首をつかまれて、思い切り引っ張られた。 「えっ? なにっっ! わっ!!」  友悟は秋斗に手を引かれて、そのままマラソンの列の一番トップに走り出た。 「オレがこのまま引っ張っていってやるから、白兎は転ばないようにだけ気をつけてろよ」 「えっ……ちょっと、秋斗っ……」  困惑する友悟に構わず、秋斗は長い脚で颯爽と公園を駆け抜けていく。  固まって走っているクラスメートたちをどんどん引き離して走る。 「あー、ずるいぞー! 友悟」  宏をはじめとする友人たちのブーイングが後ろから追いかけてきた。  しかし、秋斗が引っ張ってくれているとはいえ、ついていくには友悟も懸命に力を出して走らなければいけないので、それほど楽ではない。  ……でも、気持ちよかった。  フラフラと走っているときには感じたことがなかった高揚感。  頬に当たる冷たい空気も、耳元で聞こえる風を切る音も……大好きな人に手首をつかまれて走っている、この瞬間すべてが、たまらなく心地よかった。

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