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第51話

 友悟は女性に興味がないので、美菜は恋愛対象ではなく、彼女の魅力というのも心に迫っては来ない。  それでも抜きんでた美少女だということは分かる。  ノーマルの秋斗の目には美菜はとても魅力的に映っており、付き合い始めて、お互いの人となりを知っていくにつれ恋愛感情が芽生え、相思相愛になって、本当の意味での恋人同士となる……。  ああっ……、だめだっ……!  友悟は心の中で大きくかぶりを振った。  そんなふうに考えだしてしまうと、気持ちが底なし沼のごとくどっぷりと沈んでいく。  まだ秋斗が加納さんと付き合うって決まったわけじゃないんだから……!  必死に自分に言い聞かす友悟だったが、それをあざ笑うかのように、秋斗は昼休みが終わり、五時間目の授業が始まっても戻っては来なかった。  斜め前方の空席を見ていると、友悟の頭の中でどんどん嫌な想像が育っていく。  秋斗、まだ加納さんといっしょのいるの? どこでなにをしてるの?  テレビドラマで見たキスシーンやラブシーンが、秋斗と美菜になって再生される。  ……結局、秋斗が戻ってきたのは六時間目が始まるチャイムが鳴り、教師がやって来る寸前だった。  友悟の気持ちはどん底まで落ち込んでいた。  いつもは斜め後方という自分の席をいいことに、秋斗の顔を盗み見放題に見ていたが、今は見たくなかった。彼の端整な横顔に美菜の影を見てしまいそうで。  六時間目が終わり、最後のショートホームルームが始まるまでのわずかな自由時間、友悟は教室から逃げ出した。  秋斗の顔を見たくなかったし、もし秋斗の口から美菜のことが語られたら、みっともなく泣いてしまいそうだったから。

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