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第53話

 全身を冷たい雨に打たれながら、友悟は呟いた。 「おまじない……、成功した……?」  ――空から落ちてくる雨の最初の一滴が、鼻のてっぺんに当たれば恋が叶う――  ふるふると感動で体が震える。  秋斗が口にしたその瞬間からずっと挑戦を続けてきたおまじない。  それが成功したうれしさはとても大きくて、束の間、落ち込んでいる気持ちをも忘れた。 「……った……。やったーっ」  友悟はずぶ濡れになりながら、雨を落とす空に向かってガッツポーズをする。  だが、やはりそんな喜びは長くは続くはずがなく、否応なしに現実が戻ってきた。  今度は一気に虚しさが込み上げる。 「……だからなんだよって感じだよね」  自分で自分を嘲った。  おまじないに成功したからといって、なにが変わるわけでもない。  友悟の恋が叶うわけなどないのだ。  秋斗は……友悟の大好きな人は、学校一の美少女に告白されて、そのまま二時間近くも姿を消した。  その間、二人がなにをしていたのかは想像したくもないが、なんにせよ秋斗は美菜の気持ちを受け入れたということだ。 「バカみたいだ……、僕」  口をついて出る自嘲の言葉が、友悟を余計にみじめな気もちにさせる。  冷たい雨に打たれていると、ふと後ろに人の気配を感じた。  友悟が振り返ると、 「よお、稲葉ちゃん」  増月が立っていた。いつも腰ぎんちゃくのようにくっついている子分はおらず、一人である。 「おまえがここに来るのを見かけてさ」  増月はニヤニヤと厭らしい笑みを貼り付けている。 「…………」  秋斗と美菜のことで打ちひしがれていた友悟は、感情が鈍磨していて、増月を見ても恐怖心を覚えなかった。  むしろどんなに嫌がられても自分の欲望のままに行動できる図々しさは、ある意味うらやましくもあった。

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