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第55話

「秋斗っ……」  彼の姿を見た瞬間、安堵の気持ちが湧き上がり、足がもつれた。  そのまま倒れそうになる友悟を、秋斗の力強い腕が受け止めてくれる。 「大丈夫か!? 白兎!!」 「う、ん……」  秋斗の腕の中で激しい呼吸を繰り返しながら、後ろを振り返った。  増月はすぐ近くまで追いついてきていた。どうやら間一髪だったようだ。  秋斗は増月の姿を見ると、静かだが有無を言わせぬ声で命令した。 「増月、二度とこいつに近づいてみろ。ぶっ殺すからな……」  冷たい美貌を持つ彼が放った恫喝の言葉はものすごく迫力があった。  さすがの増月も怯んだのか舌打ちをすると、その場を立ち去って行った。  増月の姿が完全に見えなくなると、秋斗は友悟のほうを見て心配そうに顔を曇らせる。 「白兎、おまえびしょ濡れじゃないか。いったいどこ行ってたんだよ? いくら探してもいないから心配したんだぞ」  そう言うと、彼は制服のブレザーを脱ぎ、友悟の頭にかぶせてくれる。 「オレのはまだそんなに濡れていないから」  そして秋斗のブレザーを傘代わりにして歩き出し、校舎の中へと連れて行ってくれた。 「体、冷え切ってるじゃないか。このままじゃ風邪ひくな。ちょっとここで待ってて、友悟」  秋斗は友悟を靴箱の傍にある自動販売機のコーナーのベンチに座らせる。  カップ入りの温かいココアを友悟の手に握らせると、秋斗は校舎の奥へと走って行った。

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