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第56話

 秋斗を待っているあいだ三回くしゃみが出た。  温かいココアを飲んでいるのに、体の芯からゾクゾクと嫌な感じの寒気が這いあがってくる。  あー、まずいなー。長い時間、雨に打たれていたから風邪引いちゃったかなー?  友悟は丈夫ではないから、すぐに風邪を引いてしまう上、いったん風邪を引いたら熱が高くなり長引いてしまうのが常だ。  本当やだな。  ジム通いで少しは強くなったかと思っていたけど、そんなに簡単に生まれついての体質は関わらないみたいだ。  友悟が落ち込んでいると秋斗が戻ってきた。  自分の鞄と友悟の鞄を小脇に抱え、大きめのタオルを手に持っている。  彼は友悟にタオルを渡すと、びしょ濡れの髪や体を拭くように促し、 「朝、いい天気だったから、オレも折り畳みの傘持ってきてないんだよ。教室にあった置き傘はもうとっくにないし」  話しながら歩き出す。  友悟は彼の後ろ姿に問いかけた。 「ちょっと秋斗、どこ行くの?」 「どこって、帰るんだよ。白兎、髪拭きながらでいいからちゃんとついて来いよ」 「え? 帰るったって、出口はこっちだよ、秋斗」  秋斗はいつもの出入り口とは反対方向へ歩いて行っているのだ。 「ああ、チャリで帰るから」 「え? チャリって、自転車?」  だが、秋斗は徒歩通学で、自転車通学などしていない。  はて? 「担任に事情を話して自転車借りたんだ。少しでも早く帰って着替えたほうがいいと思って。チャリで飛ばせば、おまえの家まで五分くらいで帰れるだろ?」  そんなふうに言い、秋斗が友悟を連れてきたのは、教員用の自転車置き場だった。

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