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第57話

 雨は相変わらず強く降っている。 「ほら早く後ろに乗って」  友悟は秋斗に促されるまま自転車の後部座席にまたがった。 「ちょっと飛ばすから、しっかりつかまっていろよ、白兎」 「え? あ、う、うん」  しっかりつかまる、ということは彼に密着するということだ。  秋斗にしてみれば友達がしがみつくというだけの意味でしかないのだろうが、友悟にとっては好きな人に思い切りくっつけるチャンスである。  あー、なんか緊張する。でもうれしいけど。  もしかしてこれって『おまじない』の効果だったりするのかな? だとしたらがんばった甲斐があったかも……。  友悟は腕を秋斗の腰に回してギュッとしがみついた。  シャツ越しに伝わってくる彼の体温が愛しくて、なんだか泣きそうな気持になる。 「秋斗、寒いでしょ? ごめんね」  秋斗のブレザーは友悟が頭から被っているため、彼は制服のシャツ一枚である。 「平気だよ。白兎がくっついてるから暖かい」  やさしく微笑んだ声が、程よく筋肉がついた大人っぽい背中から耳に伝わってくる。  やっぱりどうしようもなく秋斗が好きだと思った。  例え彼に彼女ができても。  一生叶うことがない恋だとしても。  それでも僕は秋斗が好き、大好き。  友達としての権利を利用して、秋斗に力いっぱいしがみつき、暖かな背中に耳をくっつけて彼の鼓動を聞く。  トクトクトク……。  秋斗の鼓動はすごく速い。  なぜなら友悟を家へ送っていくために一生懸命に自転車を走らせているから。  彼のやさしさに、友悟の瞳からこらえきれない涙が零れ落ちた。

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