58 / 87

第58話

 五分かかるか、かからないかのうちに二人を乗せた自転車は友悟の家へ帰りついた。  自転車を降りて、インターホンを鳴らすと母親が出てすぐにドアを開けてくれた。  ずぶ濡れになった息子とその友人を見て、母親は大きく目を見開く。 「あら、やだ! 友くんっ、あなた折りたたみの傘持って行ってなかったの!? 二人ともこんなに濡れて。電話してくれれば迎えに行ったのに……、もう」  おたおたと慌てながら友悟と秋斗を家の中へ入れると、大急ぎで持ってきたバスタオルを二人に渡して、暖房のきいたリビングへ促す。 「あの、おばさん。オレは大丈夫です、けど、白兎……友悟くんが体、冷え切っているみたいだから……」  バスタオルで濡れた髪を拭いながら、秋斗が心配そうに友悟を見ている。 「ありがとう、秋斗くん。今、お風呂沸かしているから、沸いたらすぐに友くんを入れるわ。秋斗くんも早く着替えて、風邪ひいちゃわないうちに」  母親は秋斗の濡れた制服の着替えに、父親のスエットの上下を差し出す。白兎の父親も背が高いのでサイズはなんとかなるだろう。  友悟は毛布にくるまりながら秋斗と母親のやり取りを見ていた。  もうお母さんてば完全に秋斗の大ファンになってるよ。目の輝きが違うもん。  まあでも当然だよね。秋斗はかっこいいもん。  さっきだってここぞってときに現れるし。それにチャリで家まで送ってくれて。  本当チャリに乗る姿も絵になるんだから。  白馬に乗った王子様ならぬ自転車に乗った王子様ってやつ? 普通ならギャクにしかならないのに、秋斗ならかっこいい。  後ろに乗っているのが僕っていうところがイマイチかもしれないけどね。  そんなことを考えていると、お風呂が沸いたと音声が知らせた。

ともだちにシェアしよう!