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第60話

「え!?」  母親と息子は仲良くハモって驚きの声を上げ、彼のほうを見た。 「……っていっても、たいして役には立たないかもしれませんけど。オレの母方の伯母が看護師なんです。だから一通りの応急処置の知識はありますし。まあ、いないよりはマシっていうレベルなんですが……」  秋斗王子の申し出に、母親が逡巡らしきものを巡らせていたのは、ほんのわずかなあいだだった。 「それじゃお願いしようかしら。友くんと違って秋斗くんはしっかりしているから安心だもの。帰って来れるのは明後日の日曜日になっちゃうんだけど、それでもいい?」 「はい」  と秋斗。  突然の成り行きに、友悟はソファに横になったままポカンと口を開けて二人を見つめるだけである。  当人だけが置いてきぼりに、秋斗と母親のあいだではサッサと話が決まっていく。 「友くんにはおかゆを作っておくから。秋斗くんは夕飯用に作っておいたカレーを食べてくれる? お風呂は自由に使ってね。脱衣所の右側にあるクローゼットに新しいバスタオルとかいろいろ入ってるから」 「分かりました」 「友くん、今夜、電話できそうだったらするけど、無理だったら明日の朝にかけるから」  母親は早口でそれらの言葉を言うと、時計を見上げ、 「大変! もうこんな時間」  大慌てでリビングを出て行った。  父親とは駅で落ち合う予定になっているらしく、支度を済ませた母親は、 「それじゃ、お願いね、秋斗くん。友くん、わがまま言っちゃだめよ」  秋斗に微笑みかけ、友悟に言いつけると出かけて行った。  わがままって、子供じゃないんだから。もうお母さんてば。  ……それにしても、思いもかけない形で秋斗と二人きりで過ごすことになってしまった。それも二晩も、である。  改めてそう考えると、なんだか熱が上がった気がした。

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